BL版権物の二次創作ブログです。現在『メイド*はじめました』で活動中です。
自己紹介
名前:うさこ
萌属性:血縁、年の差、アホ子受、ワンコ攻
好き:甘々、主人公総受け
嫌い:イタい子
イチオシ:安元洋貴ボイズ
サイトバナー:リンクフリーです
↓ご自由にお使いください
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2008/12/15 (Mon)
↑って言わせたかっただけ…ホントは。ゴメンね裕太w
でも、兄ちゃんはきっと鼻血ふいてるよwwこのお話は、「怒った兄ちゃんが見たいなー」と思って書きました。
私は根っからの甘々好きなんで、「弟を甘やかしまくる兄」という周平のポジションが大好きなんですよ。
でも、本当のところ、周平の本質はそういった「甘い」部分よりも、むしろ普段は隠している「怖い」部分にあるんじゃないかなー、と思ってます。
*
あ、「怖い」と言ったって、別に周平が暴力的だと言ってるわけじゃありませんよ。
そりゃまあ確かに、周平には「金属バット」という最終兵器(w)があるわけですが、でも、それは裕太を守るための一つの手段であって、その行為が裕太に対して向けられることは絶対ないですよね。
ですから、裕太にとっての周平の「怖さ」というのは、そういった肉体的脅威ではなく、もっと精神的な……精神的、というのもちょっと違うかな……実質的……?
うーん、なんと言うんでしょうか……「逃げられない怖さ」とでもいいましょうか、こう……「蜘蛛の巣にかかった蝶が感じる恐怖」というか、「アリ地獄に落ちたアリが感じる恐怖」というか……え、こんな例えじゃ余計分かりにくいですか?
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2008/12/07 (Sun)
周平は始終無言だった。
「乗りなさい」と一言、助手席のドアを開けて言った以外は、目白のマンションに戻るまで、ほとんど口を利かなかった。
「兄ちゃん……怒ってる……?」
玄関の扉が閉まると、裕太は恐る恐る聞いた。
周平は背を向けて、カギを確認している。
「どうして、俺が怒ってると思うんだ」
「だって、ずっと黙ってるし」
「俺は、何か言うべきだったのか?」
周平が振り返った。
その瞳には何の感情も浮かんではいない。
しかしそれは、強い怒りをなんとかコントロールしようとしているためだと、裕太には分かった。
両手をぎゅっと握り締め、裕太は言葉を探す。
ちゃんと状況を説明すれば、周平は分かってくれるはずだ――と、裕太は思うのだが、早くしなければ、きちんとしなければ、と焦れば焦るほど、舌が上手く動かなくなる。
裕太は言い訳したり、申し開きしたりするのは苦手なのだ。
いつもだったら、そんな裕太の性質を誰よりもよく理解している周平の方から、進んで話を促してくれるはずだったが、今日は様子が違った。
すがるような視線を向けた裕太に対して、周平は皮肉な微笑を浮かべ、小さく肩をすくめた。
「何を言えばいいんだ? 俺に何と言って欲しい? “可愛らしいドレスですね、よくお似合いですよ”とでも? それとも、“ボーイフレンドを連れてパーティーに出るのは、お前にはまだ早い”と説教でもすればいいのか?」
遠くへ突き放すような言い方だった。
ショックを受けた裕太が、信じられない思いで見上げると、周平は苦い顔をして視線を反らした。
棒立ちになった裕太の脇を抜け、靴を脱ぐ。
「おいで」
あがりかまちに上がると、周平は手招きした。
裕太は首を振って、後ろに下がった。
「やっぱり……怒ってるんだ、オレが馬鹿なことしたから……」
「――いつまでも、そんな所に立ってたって仕方がないだろう。さあ、早く上がりなさい」
「兄ちゃん、ごめんなさい……」
「いいから、来なさい」
「ごめんなさ――」
「裕太!」
雷鳴のような一喝が、広い玄関を震わせた。
ビクッと身をすくめた裕太に向かって、周平の手が伸びる。
その顔には、もう偽りの穏やかさはない。明らかな苛立ちがにじんでいる。
次に来るだろう衝撃を予想し、裕太がぎゅっと目を瞑った瞬間、その体は周平の肩に担ぎ上げられていた。
「に、兄ちゃ――」
「騒ぐんじゃない」
氷のように冷たく感じる声に、裕太の体が硬直した。
つま先からミュールが脱げ落ち、大理石の床に当たって、カツンと硬い音を鳴らした。
「乗りなさい」と一言、助手席のドアを開けて言った以外は、目白のマンションに戻るまで、ほとんど口を利かなかった。
「兄ちゃん……怒ってる……?」
玄関の扉が閉まると、裕太は恐る恐る聞いた。
周平は背を向けて、カギを確認している。
「どうして、俺が怒ってると思うんだ」
「だって、ずっと黙ってるし」
「俺は、何か言うべきだったのか?」
周平が振り返った。
その瞳には何の感情も浮かんではいない。
しかしそれは、強い怒りをなんとかコントロールしようとしているためだと、裕太には分かった。
両手をぎゅっと握り締め、裕太は言葉を探す。
ちゃんと状況を説明すれば、周平は分かってくれるはずだ――と、裕太は思うのだが、早くしなければ、きちんとしなければ、と焦れば焦るほど、舌が上手く動かなくなる。
裕太は言い訳したり、申し開きしたりするのは苦手なのだ。
いつもだったら、そんな裕太の性質を誰よりもよく理解している周平の方から、進んで話を促してくれるはずだったが、今日は様子が違った。
すがるような視線を向けた裕太に対して、周平は皮肉な微笑を浮かべ、小さく肩をすくめた。
「何を言えばいいんだ? 俺に何と言って欲しい? “可愛らしいドレスですね、よくお似合いですよ”とでも? それとも、“ボーイフレンドを連れてパーティーに出るのは、お前にはまだ早い”と説教でもすればいいのか?」
遠くへ突き放すような言い方だった。
ショックを受けた裕太が、信じられない思いで見上げると、周平は苦い顔をして視線を反らした。
棒立ちになった裕太の脇を抜け、靴を脱ぐ。
「おいで」
あがりかまちに上がると、周平は手招きした。
裕太は首を振って、後ろに下がった。
「やっぱり……怒ってるんだ、オレが馬鹿なことしたから……」
「――いつまでも、そんな所に立ってたって仕方がないだろう。さあ、早く上がりなさい」
「兄ちゃん、ごめんなさい……」
「いいから、来なさい」
「ごめんなさ――」
「裕太!」
雷鳴のような一喝が、広い玄関を震わせた。
ビクッと身をすくめた裕太に向かって、周平の手が伸びる。
その顔には、もう偽りの穏やかさはない。明らかな苛立ちがにじんでいる。
次に来るだろう衝撃を予想し、裕太がぎゅっと目を瞑った瞬間、その体は周平の肩に担ぎ上げられていた。
「に、兄ちゃ――」
「騒ぐんじゃない」
氷のように冷たく感じる声に、裕太の体が硬直した。
つま先からミュールが脱げ落ち、大理石の床に当たって、カツンと硬い音を鳴らした。
2008/11/30 (Sun)
周平の右手が、肩の高さまで持ち上がった。
形よく整えられた爪の先がグラスの脚を僅かに傾けると、底に残った透明な液体がこぼれ、ワンピースの袖口に小さな染みを作った。
「失礼」
周平は平坦な声で言った。
ほんの一瞬だったはずの動きが、裕太の目には奇妙なスローモーションのように映った。
「に――」
「これは、とんだ不調法を」
兄ちゃん、と言いかけた裕太の声を打ち消すように、周平が言葉をかぶせた。
「ドレスが汚れてしまいましたね」
「え……」
「レストルームに、ご案内させて頂けますか」
周平は裕太に向かって手を差し伸べた。
まるで本当のレディーにダンスを申し込むように、丁寧な物腰だった。
裕太は反応に困った。
周平がわざとらしくこぼしたカクテルの意味も、自分をまるで見知らぬ女の子のように扱う意味も、そして、確かに感じているはずの怒りを、完全に押し隠しまったことの意味も、何も分からなかったからだ。
裕太はまるで時間が止まってしまったかのように、目の前で揃えられた長い指を見詰めた。
「レストルームへ行って、染みにならないように、応急処置をしましょう」
ぼんやりと立ち尽くす裕太に、周平はもう一度ゆっくりと、噛んで含めるように繰り返した。
辛抱強い誘いかけだったが、やはり裕太は動けなかった。
自分の理解力が足りないせいで、兄の意図をめちゃくちゃにしてしまうことを恐れていたのだが、しかし周平はそう受け取らなかったようだった。
いつまでも答えない裕太に、今度は焦れたように「さあ!」と、少し強い声で促す。
驚いた裕太が反射的に手を掴むと、途端に強い力で引き寄せられた。
「あら、ダメよ裕太ちゃん、そんな古典的な手に引っかかっちゃ」
何がおかしいのか、光貴がクスクスと笑いながら、裕太に手を伸ばしてきた。
すかさず周平が間に入り、その手を遮る。
「ご心配なく、私は天国屋の者ですから」
周平は胸の内ポケットから名刺を取り出すと、光貴の鼻先に突きつけた。
「何かご不審でしたら、こちらに確認いただいて結構です」
「……あら、そぉ」
光貴は指先でつまみ取った紙片を、興味なさげに一瞥した。
周平は礼儀正しい微笑みを浮かべ、軽く目礼する。
「ええ、ご友人は、私が責任を持ってお預かりしますよ」
態度はいたって丁重だったが、その口調には、自分の圧倒的優位を確信する者の傲慢さが溢れていた。
瞬間、光貴の目が獲物を見つけた猫のように鋭く光った。
「ふぅん」
光貴は挑発的な視線で周平を見据えると、見せ付けるしぐさで、綺麗に並んだ活字の上を、ベロリと舐め上げた。
形よく整えられた爪の先がグラスの脚を僅かに傾けると、底に残った透明な液体がこぼれ、ワンピースの袖口に小さな染みを作った。
「失礼」
周平は平坦な声で言った。
ほんの一瞬だったはずの動きが、裕太の目には奇妙なスローモーションのように映った。
「に――」
「これは、とんだ不調法を」
兄ちゃん、と言いかけた裕太の声を打ち消すように、周平が言葉をかぶせた。
「ドレスが汚れてしまいましたね」
「え……」
「レストルームに、ご案内させて頂けますか」
周平は裕太に向かって手を差し伸べた。
まるで本当のレディーにダンスを申し込むように、丁寧な物腰だった。
裕太は反応に困った。
周平がわざとらしくこぼしたカクテルの意味も、自分をまるで見知らぬ女の子のように扱う意味も、そして、確かに感じているはずの怒りを、完全に押し隠しまったことの意味も、何も分からなかったからだ。
裕太はまるで時間が止まってしまったかのように、目の前で揃えられた長い指を見詰めた。
「レストルームへ行って、染みにならないように、応急処置をしましょう」
ぼんやりと立ち尽くす裕太に、周平はもう一度ゆっくりと、噛んで含めるように繰り返した。
辛抱強い誘いかけだったが、やはり裕太は動けなかった。
自分の理解力が足りないせいで、兄の意図をめちゃくちゃにしてしまうことを恐れていたのだが、しかし周平はそう受け取らなかったようだった。
いつまでも答えない裕太に、今度は焦れたように「さあ!」と、少し強い声で促す。
驚いた裕太が反射的に手を掴むと、途端に強い力で引き寄せられた。
「あら、ダメよ裕太ちゃん、そんな古典的な手に引っかかっちゃ」
何がおかしいのか、光貴がクスクスと笑いながら、裕太に手を伸ばしてきた。
すかさず周平が間に入り、その手を遮る。
「ご心配なく、私は天国屋の者ですから」
周平は胸の内ポケットから名刺を取り出すと、光貴の鼻先に突きつけた。
「何かご不審でしたら、こちらに確認いただいて結構です」
「……あら、そぉ」
光貴は指先でつまみ取った紙片を、興味なさげに一瞥した。
周平は礼儀正しい微笑みを浮かべ、軽く目礼する。
「ええ、ご友人は、私が責任を持ってお預かりしますよ」
態度はいたって丁重だったが、その口調には、自分の圧倒的優位を確信する者の傲慢さが溢れていた。
瞬間、光貴の目が獲物を見つけた猫のように鋭く光った。
「ふぅん」
光貴は挑発的な視線で周平を見据えると、見せ付けるしぐさで、綺麗に並んだ活字の上を、ベロリと舐め上げた。
2008/11/24 (Mon)
ショーの終わったフロアは、先ほどの騒がしさとは一転、控えめな音楽の中に談笑の波がさんざめく、大人たちの社交場へと変身していた。
アルコールの香りが漂い始めた会場を、裕太は慎重に見渡した。
シフォンのワンピースに、細いかかとのミュール、「遊びだから」と冗談めかした光貴の、しかし笑ってはいなかった瞳に、半ば脅迫されるように塗られた、リップグロス。
唇を桜色に染め、慣れないヒールで転ばないようヨロヨロと内股になって歩く裕太は、知らないものが見れば、まず間違いなく女だと勘違いしただろう。
膨らみのない胸や、丸みのない手足を見て、年齢のわりには肉付きが薄い、と感じる者もいるかもしれないが、それも昨今痩せすぎが多い女性にはありがちなことだから、まさか男だからとは思うまい。
森の中からこっそりと辺りを窺う小鹿のように、モデル達の隙間から顔をのぞかせながら、裕太は生まれて始めて、自分の体が標準よりも小さめに出来ていることを感謝した。
全員が180cmを超えているモデル達の集団に囲まれてしまえば、特に身を屈めるまでもなく、周囲の視線から姿を隠すことが出来るのだ。
*
「裕太ちゃんってば、さっきから何してるの?」
シャンパングラスを傾けながら、光貴が振り返った。
ぺったりと後ろに張り付くようにして歩いていた裕太は、背中にぶつかりそうになって、慌てて立ち止まる。
「ななな、なんでもないですっ」
「あらそぉ?」
面白そうに見下ろしてくる光貴に、裕太は無言で激しく頷いた。
とにかく放って置いて欲しい、と言う意図をこめたジェスチャーだったが、光貴には通じなかったようだ。
うふふ、と意味深な笑みを浮かべると、裕太の耳元に唇を寄せる。
「ひょっとして、裕太ちゃん、気がついた?」
「え、な、なにがですか」
「う~ん、もう、とぼけちゃってぇ~。アレよ、アレ」
じれったそうに体を揺すりながら、光貴はフロアの奥を指差した。
「あのヒトよぉ~。さっきから、じ~っと裕太ちゃんを見てるの」
「えぇっ!?」
裕太は、ぎょっとして目を凝らした。
そこには、こちらを見詰めて佇む、一人の男のシルエット。
誰か知り合いにでも見つかったのかと、ドキドキしながら様子を探るが、控えめな照明に沈んで、顔はよく見えない。
三つボタンのダークスーツに、シルバーグレーのネクタイを締めた略礼装の男。
その足元に視線を落として、裕太は、ほっと力を抜いた。
ワックスで丁寧に磨き上げられ、エナメルのように黒光りするストレートチップ。
何の飾りもないシンプルなそれは、一見、サラリーマンが好んで履く、平凡なビジネスシューズと変らない。
しかし裕太は、それがイギリスの工房で、いっそく一足、顧客の足型に合わせて手縫される、職人技の詰まった一品だと知っていた。
――見る人が見れば分かる。
裕太の兄……周平は、そういう「遊び」が好きなのだ。
アルコールの香りが漂い始めた会場を、裕太は慎重に見渡した。
シフォンのワンピースに、細いかかとのミュール、「遊びだから」と冗談めかした光貴の、しかし笑ってはいなかった瞳に、半ば脅迫されるように塗られた、リップグロス。
唇を桜色に染め、慣れないヒールで転ばないようヨロヨロと内股になって歩く裕太は、知らないものが見れば、まず間違いなく女だと勘違いしただろう。
膨らみのない胸や、丸みのない手足を見て、年齢のわりには肉付きが薄い、と感じる者もいるかもしれないが、それも昨今痩せすぎが多い女性にはありがちなことだから、まさか男だからとは思うまい。
森の中からこっそりと辺りを窺う小鹿のように、モデル達の隙間から顔をのぞかせながら、裕太は生まれて始めて、自分の体が標準よりも小さめに出来ていることを感謝した。
全員が180cmを超えているモデル達の集団に囲まれてしまえば、特に身を屈めるまでもなく、周囲の視線から姿を隠すことが出来るのだ。
*
「裕太ちゃんってば、さっきから何してるの?」
シャンパングラスを傾けながら、光貴が振り返った。
ぺったりと後ろに張り付くようにして歩いていた裕太は、背中にぶつかりそうになって、慌てて立ち止まる。
「ななな、なんでもないですっ」
「あらそぉ?」
面白そうに見下ろしてくる光貴に、裕太は無言で激しく頷いた。
とにかく放って置いて欲しい、と言う意図をこめたジェスチャーだったが、光貴には通じなかったようだ。
うふふ、と意味深な笑みを浮かべると、裕太の耳元に唇を寄せる。
「ひょっとして、裕太ちゃん、気がついた?」
「え、な、なにがですか」
「う~ん、もう、とぼけちゃってぇ~。アレよ、アレ」
じれったそうに体を揺すりながら、光貴はフロアの奥を指差した。
「あのヒトよぉ~。さっきから、じ~っと裕太ちゃんを見てるの」
「えぇっ!?」
裕太は、ぎょっとして目を凝らした。
そこには、こちらを見詰めて佇む、一人の男のシルエット。
誰か知り合いにでも見つかったのかと、ドキドキしながら様子を探るが、控えめな照明に沈んで、顔はよく見えない。
三つボタンのダークスーツに、シルバーグレーのネクタイを締めた略礼装の男。
その足元に視線を落として、裕太は、ほっと力を抜いた。
ワックスで丁寧に磨き上げられ、エナメルのように黒光りするストレートチップ。
何の飾りもないシンプルなそれは、一見、サラリーマンが好んで履く、平凡なビジネスシューズと変らない。
しかし裕太は、それがイギリスの工房で、いっそく一足、顧客の足型に合わせて手縫される、職人技の詰まった一品だと知っていた。
――見る人が見れば分かる。
裕太の兄……周平は、そういう「遊び」が好きなのだ。
2008/11/16 (Sun)
「……なんでオレが、こんな格好……」
裕太はワンピースの短すぎる裾を引っ張って、唇をかんだ。
美しく波打つフレアーの下から、すーすーと冷たい空気が入り込んで、生身の足を冷やしていく。
攫われるようにして、池袋の天国屋メンズ館に連れてこられた裕太は、オープン記念のショーの舞台裏で、光貴の着せ替え人形にされていた。
「KOKIさん……あの、オレ……」
「カワイイわぁ~、裕太ちゃん」
野太い地声を甲高く装って、光貴が歓声を上げる。
両手を合わせてクネクネと腰をひねる仕草は、女々しいと言うよりも、むしろ堂に入っていて、迫力すらある。
「やっぱりアタシの思った通りよぉ~、本当の女の子みたいじゃない」
「うぅ……」
光貴のテンションに、当然、裕太はついて行けない。
どうして女の子はこんな薄い布一枚で、平気で外を歩けるんだろう、と裕太はその心許ない感覚に、もじもじと膝をすり合わせた。
「あの……もう、いいですか……オレ、着替えて……」
「あら、どうして?」
「ど、どうしてって……」
意味が分からない、と大きく目を見開いた光貴に、裕太は返答に詰まった。
そんなの当たり前だ、と言い返したかったが、光貴には最初からそういう常識的な価値観を受け入れるつもりがないのだ。
そういう相手に向かって、論理を組み立て反論するのは、裕太のもっとも苦手とする所だった。
「えっと……それは、だから……恥ずかしいし……」
「あら、恥ずかしくなんてないわ! 大丈夫よ、すっごく似合ってる、本当にアタシの理想そのもの!」
「な、なんですか、理想って……」
身を乗り出して力説する光貴の勢いに押されて、裕太はのけぞった。
真っ赤に染めた髪とピタピタのレザーパンツ、そして奇妙なオカマ言葉がトレードマークである光貴の「理想」だと言われて、素直に喜ぶのには抵抗があるが、そんな風に思われるのは迷惑だ、ときっぱり言い切ってしまう勇気もない。
答えに迷う裕太を見下ろして、光貴はぺろりと舌なめずりした。
「真に存在するものを示す事実を拒否する属性」
「しんに……きょひ……、え? え?」
目を白黒させて聞き返した裕太に、光貴はウフフと含みのある笑みを浮かべた。
「服を変えるだけで、男にも女にもなれるなんて、ステキじゃない?」
「す、すてき……ですか……」
「ステキよぉ~」
光貴は大きく頷くと、ほら、とTシャツの袖をまくって腕を折り曲げて見せた。
ぶ厚い肩から突き出たたくましい二の腕に、筋肉が盛り上がる。
「アタシなんか服どころか、体いじったって女になんか見えないもの。だから本当に裕太ちゃんが羨ましいの」
急にしんみりとした調子になった光貴の言葉に、裕太はドキリとした。
人のことなどお構いなしで、自由気ままに振舞っているように見える光貴にも、心の奥底には、何か人には言えない深い思い抱えているのかもしれない……と、そんな風に思ってしまえば、裕太の性格上、もう抵抗することはできなかった。
「……そうなん、ですか……」
「そうなのよぉ~、だから裕太ちゃんは自信を持って!」
光貴は裕太の手を取ると、ステキよステキよ、と鏡の前をぐるぐると回った。
そう広くもないバックステージの、しかも慌しい現場の中心だったが、はしゃぐ光貴に口を挟む勇気があるのもは誰もいない。
出番の終わったモデルも、後片付けを始めたスタッフ達も皆、半ば面白そうに、半ば恐々といった様子で遠巻きに伺っている。
突然入り込んできた部外者の存在を不快に思わないはずはないが、それが滝沢と、そして光貴の連れであると知ると、ああなるほど、と頷きあって口をつぐんだ。
自ら好んで火中の栗を拾いたがるような世渡り下手では、この業界で生き残っていくことは難しいのだ。
裕太はワンピースの短すぎる裾を引っ張って、唇をかんだ。
美しく波打つフレアーの下から、すーすーと冷たい空気が入り込んで、生身の足を冷やしていく。
攫われるようにして、池袋の天国屋メンズ館に連れてこられた裕太は、オープン記念のショーの舞台裏で、光貴の着せ替え人形にされていた。
「KOKIさん……あの、オレ……」
「カワイイわぁ~、裕太ちゃん」
野太い地声を甲高く装って、光貴が歓声を上げる。
両手を合わせてクネクネと腰をひねる仕草は、女々しいと言うよりも、むしろ堂に入っていて、迫力すらある。
「やっぱりアタシの思った通りよぉ~、本当の女の子みたいじゃない」
「うぅ……」
光貴のテンションに、当然、裕太はついて行けない。
どうして女の子はこんな薄い布一枚で、平気で外を歩けるんだろう、と裕太はその心許ない感覚に、もじもじと膝をすり合わせた。
「あの……もう、いいですか……オレ、着替えて……」
「あら、どうして?」
「ど、どうしてって……」
意味が分からない、と大きく目を見開いた光貴に、裕太は返答に詰まった。
そんなの当たり前だ、と言い返したかったが、光貴には最初からそういう常識的な価値観を受け入れるつもりがないのだ。
そういう相手に向かって、論理を組み立て反論するのは、裕太のもっとも苦手とする所だった。
「えっと……それは、だから……恥ずかしいし……」
「あら、恥ずかしくなんてないわ! 大丈夫よ、すっごく似合ってる、本当にアタシの理想そのもの!」
「な、なんですか、理想って……」
身を乗り出して力説する光貴の勢いに押されて、裕太はのけぞった。
真っ赤に染めた髪とピタピタのレザーパンツ、そして奇妙なオカマ言葉がトレードマークである光貴の「理想」だと言われて、素直に喜ぶのには抵抗があるが、そんな風に思われるのは迷惑だ、ときっぱり言い切ってしまう勇気もない。
答えに迷う裕太を見下ろして、光貴はぺろりと舌なめずりした。
「真に存在するものを示す事実を拒否する属性」
「しんに……きょひ……、え? え?」
目を白黒させて聞き返した裕太に、光貴はウフフと含みのある笑みを浮かべた。
「服を変えるだけで、男にも女にもなれるなんて、ステキじゃない?」
「す、すてき……ですか……」
「ステキよぉ~」
光貴は大きく頷くと、ほら、とTシャツの袖をまくって腕を折り曲げて見せた。
ぶ厚い肩から突き出たたくましい二の腕に、筋肉が盛り上がる。
「アタシなんか服どころか、体いじったって女になんか見えないもの。だから本当に裕太ちゃんが羨ましいの」
急にしんみりとした調子になった光貴の言葉に、裕太はドキリとした。
人のことなどお構いなしで、自由気ままに振舞っているように見える光貴にも、心の奥底には、何か人には言えない深い思い抱えているのかもしれない……と、そんな風に思ってしまえば、裕太の性格上、もう抵抗することはできなかった。
「……そうなん、ですか……」
「そうなのよぉ~、だから裕太ちゃんは自信を持って!」
光貴は裕太の手を取ると、ステキよステキよ、と鏡の前をぐるぐると回った。
そう広くもないバックステージの、しかも慌しい現場の中心だったが、はしゃぐ光貴に口を挟む勇気があるのもは誰もいない。
出番の終わったモデルも、後片付けを始めたスタッフ達も皆、半ば面白そうに、半ば恐々といった様子で遠巻きに伺っている。
突然入り込んできた部外者の存在を不快に思わないはずはないが、それが滝沢と、そして光貴の連れであると知ると、ああなるほど、と頷きあって口をつぐんだ。
自ら好んで火中の栗を拾いたがるような世渡り下手では、この業界で生き残っていくことは難しいのだ。
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必ず最初にお読みください
成人を対象とした作品の二次創作物を含みます。
作中登場する組織名、人物名等は創作であり、実在のものとはいっさい関係ありません。
オンラインのみで活動中です。オフラインで活動する予定はありません。
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商品紹介
コイビト遊戯・しおり-短編・他-
コイビト遊戯・しおり-長編-
長編
一人墜落[大貴×裕太]0/1/2/3/4/5/6/7/8/9/10(完)
蛇の林檎[周平×裕太]0/1/2/3/4/5/6/7/8/9/10(完)
クリスマスの箱舟[周平×裕太]0/1/2/3/4/5/6/7/8/9/10(完)
深呼吸[周平×裕太]0/1/2/3/4/5/6/7/8/9/10(完)
ピーピング・トム[周平×裕太+諒]0/1/2/3/4/5/6/7/8/9/10(完)
日々是好日[周平×裕太]0/1/2/3/4/5/6/7/8/9/10(完)
災いの黒幕[周平×裕太]0/1/2/3/4/5/6/7/8/9/10(完)
ワガママ[周平×裕太]0/1/2/3/4/5/6/7/8/9/10(完)
プロメテウスの[周平×裕太]0/1/2/3/4/5/6/7/8/9/10(完)
携帯と夏休み[周平×裕太]0/1/2/3/4/5/6/7/8/9/10(完)
依存症[周平×裕太]0/1/2/3/4/5/6/7/8/9/10(完)
一人墜落[大貴×裕太]0/1/2/3/4/5/6/7/8/9/10(完)
蛇の林檎[周平×裕太]0/1/2/3/4/5/6/7/8/9/10(完)
クリスマスの箱舟[周平×裕太]0/1/2/3/4/5/6/7/8/9/10(完)
深呼吸[周平×裕太]0/1/2/3/4/5/6/7/8/9/10(完)
ピーピング・トム[周平×裕太+諒]0/1/2/3/4/5/6/7/8/9/10(完)
日々是好日[周平×裕太]0/1/2/3/4/5/6/7/8/9/10(完)
災いの黒幕[周平×裕太]0/1/2/3/4/5/6/7/8/9/10(完)
ワガママ[周平×裕太]0/1/2/3/4/5/6/7/8/9/10(完)
プロメテウスの[周平×裕太]0/1/2/3/4/5/6/7/8/9/10(完)
携帯と夏休み[周平×裕太]0/1/2/3/4/5/6/7/8/9/10(完)
依存症[周平×裕太]0/1/2/3/4/5/6/7/8/9/10(完)