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  名前:うさこ
  萌属性:血縁、年の差、アホ子受、ワンコ攻
  好き:甘々、主人公総受け
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弟のクラスメイトだった滝沢君からその電話が来たのは、裕太が行方不明になって二ヶ月が過ぎた頃だった。
『あ、どうも。俺、滝沢なんですけど、分かりますか?』
学生ながらモデルとしても活躍しているという彼を、俺は裕太の友人として相応しくない人物と判断していた。
派手な世界で生きる彼と付き合って、俺のかわいい裕太がおかしな遊びを覚えては困ると思ったからだ。
「もちろん分かるよ。裕太のお友達だったね。以前一度学校で会ったことがある」
無論、良識ある社会人である俺は、そんな感情はおくびにも出しはしないが。

『ああ、そうです。それで、あの、ですね……』
斜に構えた気だるげな話し方は、彼本来のものなのだろうが、今はどうもそれ以上に含みがあるように感じる。
「うん? 今日は何か?」
大人らしく会話の先を促してやる。
『藍川の、件なんですけど……あー、居場所とか、なんか新しい情報掴めてたりします?』
まあ、休職して裕太捜索にかかりきりになっている俺に、わざわざ電話を掛けてくる用事なんて、他にあるわけが無い。
「いや、まだ何も。櫻井君の家を出て以降、まるで突然消えてしまったようだよ」
『……そう、ですか、なにも……』
なんだか、奥歯に物が挟まったみたいな言い方だ。
他に言いたいことがあるような。
「どうしたの? ――まさか、裕太について何か知ってるの?」
『え! あ、そうじゃなくて、いや、そうというか、あーっと、つまり、言いにくいんですけど、その……今日ヘンなもの見たんですよ。いや、見たって言うか、無理やり見せられたって言うか。オレいま撮影でドイツに居るんですけど、そこでちょっと、とにかくビデオなんですけど』
何だかずいぶんと要領を得ない。
「ドイツ? ビデオ? 滝沢君、少し落ち着いて説明してくれないか。まさか、ドイツで裕太を見たって?」
彼とは一度会っただけだが、身なりや態度はともかく、年の割には大人びた、世慣れた感じの子だと思ったが、今は酷く動転して、混乱しているような様子だ。
『何から説明したらいいのかな。えーっと、ですね、何回もダビングされた後だと思うんで、あんまはっきりしないんですけど、顔のアップとか、声の感じとか、なんか似てるんですよ……っていうか、本人だと、思う……多分、いや――絶対藍川です、あれは』
驚いた。
滝沢君は直接裕太を知っている、見間違える可能性は低い。
裕太が姿を消して以来、初めてもたらされた有力情報だった。
「えっと、それは、裕太がその、映画だか何だか分からないが、とにかくそのビデオに出演してるってことかい、ドイツで?」
心臓が跳ね、息が上がる。
受話器を握り締める手に、異様に力が入るのが分かった。
『出演っていうのかな、まあそんな感じで。でも、これドイツで撮られた物じゃないですよ、映ってる部屋は障子に畳みだし、相手も全部日本語だったし』
「細かい事はどうでも――と、とにかくそのビデオ、俺にも見せてくれないかっ」
なんなら、今すぐ、ドイツに飛んだっていい。
ああ、とてもじっとしていられない、今すぐにでも部屋を飛び出しそうだ。
『いやー、オレもそう思って、くれって、幾らでも金出すからって頼んだんですけど、駄目でした。なんか、かなりヤバイ物らしくて』
「やばい――?」
突然の意味不明な言葉に、俺の思考は一瞬停止した。
『あー、つまりその、裏物ってやつで』
ウラ? 裏とは何だ、何処の裏だ?
浮き足立っていた俺の体が、疑問符と共に着地する。
「なに? ――言ってる意味が、分からないんだけど……?」
このとき俺は、ずいぶんと間の抜けた反応をしたのだと思う。
けれど、本当に彼の言っている事が分からなかった。
すると滝沢君はそんな俺に業を煮やしたのか、一つ大きく息を吐くと、明確に、はっきりと、俺にも良く分かるように、言い切った。
『だからっ、モザイクなしで、入ってるアソコも丸見えの、裏ビデオですよ!』
今度は俺が混乱する番だ。
『でも、それだけじゃないんですよ、コレは。別にモザイク無しなんてこっちじゃ普通だし……いや、だからそういうことじゃじゃなくって』
一つ言い切ったことで腹が決まったのだろう。今まで歯切れが悪かった滝沢君が堰を切ったように話し出した。
『犯罪実録っていうか……業界長いから大概の事じゃビビんないけど、これは引きましたもんオレが。
藍川、かなりマズイ事に巻き込まれてるんじゃないですかね。
マフィアに浚われて、どっかの変態に売られちゃったとか――なんか分かんないけど、とにかくコレはヤバイです。マジヤバイ、絶対犯罪絡みですよコレは。普通じゃない』
なに? 裕太が何? 何だって? どうしたって?
犯罪? マフィア? 売られた?
『そんで、ビデオ手に入れるのは無理っぽくって。携帯ムービーで画面隠し撮りしたんで、それ送りますよ。オレがあんまりクレってしつこいから、警戒させちゃったみたいで、映り悪いんですけど、一応音も取れてるし、分かると思います』
背中に嫌な汗がじっとりと滲む。
『だから、動画受け取れるアドレスあったら……』
滝沢君の声が、急に遠くなったような気がした。
しっかりしろ。
俺は暴走しそうになる感情に、必死でブレーキを掛ける。
自分を落ち着かせるために、何度も深呼吸した。
『あーもしもし? 大丈夫ですか?』
いつまでも返事をしない俺に、滝沢君が焦れたように声をかけた。
「あ、ああ、大丈夫だよ。ありがとう、アドレスだね……」
大丈夫だ。
これは悪い知らせじゃない。
裕太は生きてる。
この世界で、俺と同じ空気を呼吸している、いまも、この瞬間も。
そういう知らせだ。絶望じゃない、希望じゃないか。
呼吸を止め、動かなくなった裕太と対面する。
冷たくなった体を抱いて、絶叫。
何度も見た、そんな悪夢とは違う。
俺は関節が痛くなるほどこぶしを握り締めた。
この痛みだけが、俺を現実に引き戻してくれる。
裕太が生きているという現実に。
*
俺が目を離したから、俺が手を離したから、裕太は消えたんだ。
裕太、裕太。俺の裕太。
必ず俺が助けてやる。
兄ちゃんが絶対に見つけてやる。
だから、言ってくれ。
きっと泣いているだろう俺を笑ってくれ。
「もう、迷子になっちゃだめだよ」と。
もう一度、あのときのように。
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