心のアルバム（6）-周平×裕太-[周平視点（3）]

周平19才 川原でバッティングさて、あの日のことについては、何から話せばいいのか……そうだな……まず、幼い裕太がどんなに可愛かったかってことについて話そうか。
もちろん、裕太は今だって可愛いし、体が成長したぶん、小さい頃とは違った色気がそこに加わって、益々魅力的になっているんだけれど……少なくとも、今はもう裕太を女の子と間違える人はいないだろう。
まあ、スカートでもはかせれば話は別なんだろうが、幸いにして俺にそういうおかしな趣味はないから、心配は無用だ。
とにかく裕太は、高校生になった今でもそれぐらい可愛らしい子で、ましてや、中学に入ってぐんと背が伸びる以前の愛らしさといったら…………それはもう、世の中の変態共が、我も我もと糞バエのごとく群がってくるほどだった。

そういう変態共の一人が、家の近所に引っ越してきたのは、俺が大学一年のときだ。
幼児誘拐の前科がある変質者が、俺の可愛い裕太を放って置く訳がない。
その男は、俺の言いつけを破って一人で外に出た裕太を、また性懲りもなく連れ去ろうとした。
もちろん、裕太が部屋にいないことに気が付いた俺は、すぐに家を飛び出して、その変態に攫われる直前、危うい所で弟を助け出したんだが……この話は、これでメデタシめでたしな訳じゃない。
ちょっと考えてみて欲しい。子供を浚って慰みものにするような変質者が、自分の家の近所に住んでいると。裕太の近くに存在していると。
そんなことが、果たして許されると思うか？
そう、答えは否、断じて否だ。
そんなことが許されるはずがない……例え法や社会が許しても、この俺は決して許さない。
可愛い可愛い裕太の周囲から、危険なものを排除するのは、俺の責任であり、義務であり、なにより絶対的な正義なのだから。
*
「にーちゃん、なにしてるの？」
「バッティングの練習だよ」
「ばってんぐ？」
「そう、野球のね。こうやって、バットを振って球を打つんだ」
「野球……裕太、野球したことない」
「そうか、そういえば兄ちゃんも、したことないな」
「え？　にーちゃんも、野球したことないの？」
「うん、ないな。見たことならあるけどね」
「？　じゃあ、どうして練習してるの？」
「ああ……これはね、野球の練習じゃなくて、バットを振り回すための練習なんだよ」
「？　裕太、よくわかんない」
「そうか？　じゃあ、こう考えて。兄ちゃんがバットを振ると、街が良くなるって」
「バットで……良くなるの？」
「そう、こうやって、ぶーん、ぶーん、悪いやつは飛んで行けー、ってね」
「あ、わかった！　「痛いの、痛いの飛んで行け」と一緒だ！」
「そうそう、それだよ、裕太は賢いな」
「じゃあ、バットのおまじないだね、悪いの悪いの飛んで行けー！」
「あはは、そうだ、バットのおまじないだ。そーれ、悪いの悪いの飛んで行けー」
「悪いの悪いの飛んで行けー！」
「いいぞ、裕太、上手だな」
「うん、にいちゃんもっと、もっと」
「いいよ、悪いの悪いの飛んで行けー」
「悪いの悪いの飛んで行けー」