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BL版権物の二次創作ブログです。現在『メイド*はじめました』で活動中です。
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自己紹介

  名前:うさこ
  萌属性:血縁、年の差、アホ子受、ワンコ攻
  好き:甘々、主人公総受け
  嫌い:イタい子
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「あんなに手のかかる子、見たこと無いわ!」
大学から戻った翡翠に向かって、ハルは大げさに目を回して見せた。
乳母として育てた東久世家の三兄弟も決して扱いやすいとはいえなかったはずだが、それでも琥珀のめちゃくちゃさに比べれば些細なことだと、ハルはため息混じりにこぼす。
何しろ誰からも面倒を見てもえず、まともな教育も受けたことが無い琥珀は、基本的な生活習慣や社会常識がいっさい身に付いていないのだ。
今日もシャワーを浴びさせようしたハルに噛み付いて逃げ出してしまったらしい。
「あの野生児のおかげで、わたしは全身傷だらけよ」
手の甲に付いた歯形と、頬に付いた引っ掻き傷と、足に出来た青あざを順番に見せ、これ労災降りるんでしょうね、としかめっ面を作る。
ハル一流の冗談に、翡翠は苦笑した。
「ええ、もちろん。危険業務に対する特別手当も出しますよ」
「あらそう? なら、金額は後で交渉しましょうね」
「どうぞ、どうぞ、お好きなだけ請求してください」
翡翠は肩をすくめると、ところで、と部屋を見渡した。
「琥珀は、どこに行ったんですか」
「さーて、どこかしらね。逃げ出したっきり、お得意の“かくれんぼ”よ。もう翡翠じゃないと見つけられないわ」
お手上げというように両手を広げたハルに、翡翠はわりましたと頷く。
「じゃあ私が探しましょう」
「そうしてちょうだい、わたしは今日はもう上がらせてもらうわ」
お疲れさま、と挨拶するとハルはだるそうに腰を叩きながら部屋を出て行った。
どうやら今日も一日中、琥珀との追いかけっこだったらしい。
翡翠は着替えを手伝いに来たメイドに、脱いだジャケットを渡しながら聞いた。
「琥珀の姿を見かけたか?」
「いいえ。翡翠様がお出かけになって以来、一度もお目にかかっておりません」
「食事は」
「何も召し上がっておられません」
「やれやれ、困った子だ」
翡翠はカフスを取り、腕時計を外すとシャツの袖をまくった。
「風呂の用意をしてくれ、それから食事。軽いもので良い、そうだな……果物を一口大にカットして、それから、うんと甘くしたスクランブルエッグと、マフィンを何種類か」
「お飲み物は、何がよろしいでしょうか」
「牛乳と、フレッシュジュースを」
「はい、かしこまりました」
メイドは四十五度に腰を折って翡翠を見送った。

「琥珀」
三階の自室から一階の玄関広間に下りた翡翠は、大階段の壁に耳を当ててそっと呼びかけた。
階段下のデッドスペースは、物置き場として普段使わないパーティー用の椅子やテーブルがぎっしりと詰め込まれている。
とても人が入れるような余地は無いのだが、琥珀はまるで猫のように、積み重ねられた家具の隙間を縫って奥に入り込んでしまうのだ。
「琥珀。私だよ、出ておいで」
翡翠は中を確かめるように、コツコツと壁を指の先で叩いた。
琥珀が好んで隠れる場所は、この大階段の他に後二ヶ所ある。
一つはメイド棟の屋根裏部屋に放置されている空のワイン樽の中、もう一つは翡翠の寝室のベッドの下で、いずれも誰にも教えていない翡翠だけが知っている秘密の場所だ。
先ほど見た限りではベッドの下には見当たらなかったので、後はメイド棟の屋根裏部屋ということになる。
移動しようと翡翠がきびすを返して歩き出すと、コトリと中で何かが動いた。
「琥珀? いるのかい?」
もう一度問いかけると、隠し扉になっている壁の一部が僅かに開いた。
翡翠はしゃがみこんで、積み上げられた椅子の間を覗き込む。
奥のほうに、艶のある黒髪が光って見えた。
「琥珀、もうかくれんぼは終わりにしよう、早く出ておいで」
「……ヒスイ?」
「ああ、私だよ。ただいま」
「ヒスイしか……いない?」
「大丈夫、私しかいないよ」
さあ、と翡翠が呼びかけると、椅子の脚の隙間からおずおずと小さな手が伸びてきた。
折れそうな手首を掴んで、強くなりすぎないように注意しながら体を引っ張り出す。
腕に抱き上げると、琥珀は翡翠の顔をじっと見詰めた。
「どうして?」
「何が、どうして?」
「どうして、戻ってきたの?」
琥珀は翡翠が帰宅するたびに、必ずこう聞く。
ほんの一時間の外出でも、何度帰ってくると言い聞かせても琥珀には理解できないようで、戻った翡翠がこうして探しに来るたびに困惑した顔をする。
家庭というものを知らず、家族というものを持たなかった琥珀にすれば、自分を置いていった人間がもう一度同じ場所に戻ってくるとういことが、不可解で理解不能なのだろう。
「私は必ず戻ってくるって、琥珀と約束しただろう?」
「でも……だって、なんでなの?」
琥珀は首をかしげる。
約束という言葉の意味が分からないのだ。
翡翠に拾われる以前の記憶は全てなくしてしまったはずなのに、それでも厳しい生活の上で身についた「信じない」「期待しない」という悲しい習性が、琥珀の心に深く染み付いている。
翡翠は優しい顔で笑った。
「琥珀に会いたいから、帰って来るんだよ」
「うそ、ヒスイはいつもどっかいっちゃう」
「そうだね……私には学校も仕事もあるから、いつでも一緒にはいてあげられない。琥珀から見れば嘘吐きだと思えるかもしれない」
だけど、と翡翠は続けた。
「それでも私は帰って来るんだよ、琥珀の所に必ず帰ってくる。こんなにかわいい琥珀を置いていったりはしない」
琥珀は体を硬く緊張させて聞いていた。
優しい言葉に流されてしまわないように、厳しく自分を律しているようだった。
耐えるようにきゅっと唇を噛んだ琥珀に、翡翠は顔を近づける。
「さあ、私におかえりのキスをして。琥珀のところに帰ってきたんだと教えてくれないか」
琥珀はコクリと頷くと、小さな両手で翡翠の頬を挟んで額に口付けた。
「おかえりなさい、と言うんだよ」
「おかえりなさい」
「琥珀はかわいいね、天使みたいだ」
目を細めて笑う翡翠に、琥珀はとうとう赤面して俯いた。
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