心のアルバム（3）-周平×裕太-[裕太視点（1）]

周平15才　裕太4才
条南学園入学記念に

11も年の離れた兄弟が居るって、どんな気分だと思う？
嬉しいと思う？　それとも、面倒臭いと思う？
でも、本当のところ、想像出来ないんじゃないかな。
俺の周りにだって、そんなに年の離れた兄弟が居るヤツなんて、一人も居ないもん。
幼馴染の諒なんて、一人っ子だから、そもそも「兄弟」っていうのがどんな感じかも、分らないんじゃないのかな。
だって、諒ってば、兄ちゃんが俺のやることに、あれこれ口出ししてくるのが、とにかく面白くないみたいで、兄ちゃんのことを毛嫌いしてるんだ。
俺なんか、そういう風にされるのは昔っから慣れっこだから、今更何とも思わないんだけど、一人っ子の諒にしてみたら、それが理解できないみたい。
まあ、とにかく、皆がどう想像するのか、想像できないのかは分らないけど、どっちにしても、俺と兄ちゃんは、その「11も年が離れた兄弟」の現実版なんだ。

だいたい、11も年が離れてたら、本当のところ、半分兄弟、半分親子みたいなもんで、俺が小さい頃には、二人で並んで歩いてると、「あら、若いパパね」なんて、よく誤解されたもんだ。
兄ちゃんは年の割りに落ち着いてるから、年上に見られたんだろうし、俺は年の割りに体が小さくて、年下に見られたんだろうけど、そう言われる度に、俺はなんだかむきになって「パパじゃないもん、兄ちゃんだもん」なんて、反論してた。
兄ちゃんは別にそんな誤解をされても何とも思わないみたいだったし、俺だって本当は知らない人間の言うことなんだからって、笑って流しておけばいいと思うんだけど……なんかそういう風に言われる度に、俺と兄ちゃんが遠くに離されちゃうみたいで、我慢できなかったんだ。
だって、やっぱり「親子」より「兄弟」のほうが、ずっと「近い存在」って感じがしない？
そう思うのは俺だけかな？
*
ええっと、なんか話が横にそれちゃったかな……要するに、俺と兄ちゃんは、もうずっとそんな風だったから、俺が兄ちゃんに弱くても仕方がないんじゃないかってことが、俺は言いたかったんだ。
だって、俺が物心付いたときには、もう兄ちゃんは「一人前の男」って顔してたんだからさ、俺なんか逆立ちしたって、敵うわけないっての。
例えばここに、兄ちゃんが高校入学のときに撮った写真があるんだけど、これを見たって、兄ちゃんは今の俺よりずっと、大人びて見えるもん。
まあ諒にそれを言ったら、お前が子供っぽすぎるんだよなんて、笑われたけど、そんなこと言う諒だって、写真の兄ちゃんに比べたら、まだまだ子供って感じだと思うんだけどなあ……。
あ、これは諒には内緒ね、なんか凄く怖い顔で睨まれそうだから。
*
「裕太、ゆうた、こっちに来て、一緒に写真撮ろう」
「うん！　あ、でも、なんで？」
「兄ちゃんはね、明日から高校生になるんだ、だからその記念だよ」
「こうこうせい、って？」
「義務教育を終了……って、うーんとね、そうだな、一つ大人になるんだよ」
「また？　にいちゃん、またおおきくなるの？」
「大きく……そうだね……うん、また大きくなるんだよ」
「ダメ！　そんなの」
「え？　ダメ？　どうして？」
「だって、ゆうたはまだこんなにちいさいのに、にいちゃんばっかり、おおきくなるのは、ずるいもん」
「あはは……そうなの、ずるいの？　でもね、兄ちゃんが大きくなるは、裕太のためだから、我慢してくれないかな？」
「ゆうたの、ため？」
「そうだよ、裕太がいつでも楽しく笑っていられるように、兄ちゃんは頑張って大きくなるんだよ」
「ゆうたが、たのしい？」
「そう、例えばね……ほら！　たかい、たかーい！」
「きゃー」
「ねえ、楽しいだろ？　こうやって、いつでも裕太を抱っこしてあげられるように、兄ちゃんは大きくなるんだ」
「ゆうた、だっこすきー」
「うん、そうだね、裕太は抱っこが好きだね。だから、兄ちゃんが大きくなってもいいだろう？」
「にいちゃん、もっとおおきくなったら、もっとだっこしてくれる？」
「ああ、いつでも、抱っこしてあげる」
「やくそくね？」
「約束する。ほら……指きりげんまん――」
「――うそ、ついたら、はりせんぼん、のーます」
「「ゆびきった！」」
「きゃはは！」
「さあ、さあ、裕太、もういいだろう？　前を見て、写真撮るよ」
「うん！」
「いい子だね、あのカメラを見るんだよ」
「ちーず、するの？」
「そう、一緒に「チーズ」しようね」
「うん、わかった」
「じゃあいくよ、裕太、笑って……はい――」
「「チーズ」」