BL版権物の二次創作ブログです。現在『メイド*はじめました』で活動中です。
自己紹介
名前:うさこ
萌属性:血縁、年の差、アホ子受、ワンコ攻
好き:甘々、主人公総受け
嫌い:イタい子
イチオシ:安元洋貴ボイズ
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2010/09/07 (Tue)
「何か良いことでもお有りになったんですか」
と、秘書が言った。
コーヒーを運んでくれたことに対して、ありがとう、と声をかけた答えがそれだった。
翡翠は手元の財務諸表から顔を上げ、視線を秘書に戻した。
「なに?」
「専務は最近、とても楽しそうでいらっしゃいます」
ショートボブの黒髪に濃い目の口紅が勝気そうに見える秘書の山内は、翡翠よりも八つ年上で今年で30になる。
その年齢のせいなのか、それとも元々の性格なのか、翡翠に対してもよくこういう率直な物言いで雑談を仕掛けてきたりする。
内心に踏み込むような不躾な質問だったが、媚も諂いもない態度で不思議と不快に感じなかった。
翡翠は首をかしげ、顎の輪郭を手のひらで撫でた。
「そうですか?」
「はい、そう見えます」
「そういえば、一ヶ月ほど前に天使を一人拾いました」
真顔で答えた翡翠に、山内はまあと驚きの声を上げて、すぐに笑いだした。
「専務がそんな冗談おっしゃるなんて!」
「おかしいですか」
「いいえ、安心しました」
「安心?」
「はい。専務にも少しは人間らしい所がお有りに――……」
そこまで言うと、山内はしまったというように、口元に手を当てた。
気まずそうな顔で立ち尽くしている山内に翡翠は口元だけで笑った。
一応専務と言う肩書きを与えられていても、学生のうちは東久世グループの当主となるための見習い期間なのだと自戒していたから、社内の人間に対しては先輩として敬意を持って接すると決めていた。
翡翠は山内から視線を外し、机の右上に置かれたカップに手を伸ばした。
「うん、香りも苦味もちょうどいい」
一口飲んでカップをソーサーに戻すと、腕時計を確認して手早く書類を纏めた。
積んであったファイルに挟んで席を立つ。
「四時から会議でしたよね」
「は、はいっ。四時から26階第二会議室で、東亜製鋼事業再建についての関係者会議です」
ピンと伸び上がるように背筋を伸ばした山内に、翡翠は無表情で頷いた。
「どうも、ありがとう」
と、秘書が言った。
コーヒーを運んでくれたことに対して、ありがとう、と声をかけた答えがそれだった。
翡翠は手元の財務諸表から顔を上げ、視線を秘書に戻した。
「なに?」
「専務は最近、とても楽しそうでいらっしゃいます」
ショートボブの黒髪に濃い目の口紅が勝気そうに見える秘書の山内は、翡翠よりも八つ年上で今年で30になる。
その年齢のせいなのか、それとも元々の性格なのか、翡翠に対してもよくこういう率直な物言いで雑談を仕掛けてきたりする。
内心に踏み込むような不躾な質問だったが、媚も諂いもない態度で不思議と不快に感じなかった。
翡翠は首をかしげ、顎の輪郭を手のひらで撫でた。
「そうですか?」
「はい、そう見えます」
「そういえば、一ヶ月ほど前に天使を一人拾いました」
真顔で答えた翡翠に、山内はまあと驚きの声を上げて、すぐに笑いだした。
「専務がそんな冗談おっしゃるなんて!」
「おかしいですか」
「いいえ、安心しました」
「安心?」
「はい。専務にも少しは人間らしい所がお有りに――……」
そこまで言うと、山内はしまったというように、口元に手を当てた。
気まずそうな顔で立ち尽くしている山内に翡翠は口元だけで笑った。
一応専務と言う肩書きを与えられていても、学生のうちは東久世グループの当主となるための見習い期間なのだと自戒していたから、社内の人間に対しては先輩として敬意を持って接すると決めていた。
翡翠は山内から視線を外し、机の右上に置かれたカップに手を伸ばした。
「うん、香りも苦味もちょうどいい」
一口飲んでカップをソーサーに戻すと、腕時計を確認して手早く書類を纏めた。
積んであったファイルに挟んで席を立つ。
「四時から会議でしたよね」
「は、はいっ。四時から26階第二会議室で、東亜製鋼事業再建についての関係者会議です」
ピンと伸び上がるように背筋を伸ばした山内に、翡翠は無表情で頷いた。
「どうも、ありがとう」
30階の役員フロアからエレベーターで26階まで下りた。
会議室へ入り、先に来ていたメンバーに軽く挨拶して席につく。
東亜製鋼から猪本社長を含む取締役五名、そのメインバンクであるアシハラ銀行から投融資部部長を頭にスタッフ三名、経営再建支援機構から幹部二名、そして久世ホールディングスから財務経理担当の翡翠、企画本部常務と法務部部長、そして提携会計事務所からの会計士一名が出席した。
――人間らしいところ、か。
翡翠は先ほどの山内の言葉を思い出ながら、居並ぶメンバーを見渡した。
銀行に証券、金融庁からの天下りが幅を利かせる公益法人。
いずれも死に体の企業に群がり、人もモノも全てを金に変えて勘定する金融のハイエナ達だ。
もちろん、翡翠もそのハイエナの一匹ということになる。
「しかし、ですね。それでは組合が納得せんのですよ」
東亜製鋼の猪本社長が机に両手を突き苦しそうに言った。
薄くなった頭部に浮かんだ苦汁の汗も、ハイエナ達の冷めた目には何の感慨もたらさなかった。
「よくわからないのですが」
翡翠がおもむろに口を開いた。
「労働組合の方たちは、我々に買収されるよりも会社が潰れた方が良いという考えなんですか?」
「いや、そんなことはありません。ただ条件が……」
「わかりませんね。このスキームなら技術者の雇用保障と退職金の支給、倒産すれば退職金なしで全員解雇ですよ。どちらが社員のためになるのかは、誰が見ても明らかだと思うのですが」
本当にまったくわからない、と翡翠は首を振ってメンバーに視線を回した。
アシハラ銀行の部長がそれを受けて大きく頷く。
「そうですよ猪本社長。ここまできて、あなたはまだそんなことを言ってるんですか。東亜製鋼をここまで追い詰めたのは、その組合との依存関係なんですよ」
「な、なにを言うんですかっ、部長さん」
猪本社長は色めき立って声を荒げた。
「あなた方は役員まで送り込んでおいて何を言ってるんですか。我々はいつでも銀行の指示通りにしてきました、その結果がこれでしょうがっ!」
「人事はおたくの問題でしょう。当行を離れた人間に関してまで、我々は感知しませんよ」
「責任逃れするつもりかっ、これだから銀行は信用ならないんだっ!」
ユデダコのように顔を真っ赤にして立ち上がった猪本社長を、脇に座った取締役がまあまあと抑える。
銀行と債務者の間で交わされるこの種の低次元な言い争いを何度聞いたか、翡翠はもう数える気もしない。
銀行が責任を取らないのは社会の常識だし、他人任せの経営で会社が潰れるのは当然の帰結だ。
翡翠はわざとらしく大きなため息をつき、ファイルの上を指の先でコツコツと叩いた。
「それで、支援機構の方からは何かありませんか」
「そうですねぇ、我々は別に会社更生法を申請してもらってもかまわないんですがねぇ」
「そんなことをされたら、うちが困るんですよ」
今度は銀行が色めき立つ番だった。
世界恐慌再びかと言われるこの時勢に3000億超の不良債権を新たに抱え込むことになったら、投融資部の部長として上から責任を問われることになるのだろう。
ここまで来てスカを食うわけには行かないとばかりに、部長は力をこめた声で猪本社長に迫った。
「猪本社長。ここで会社を潰したら貴方、特別背任に問われるかもしれませんよ」
「えっ?!」
「失礼ですが、そのお年で犯罪者と社会から糾弾される身になったら、お辛いんじゃないんですか。お孫さん生まれたばかりでしょう、娘さんになんて説明するんですか?」
ねえ、と今度は打って変わって優しい声を出す。
アメとムチの見事な使い分けに、猪本社長は萎れたように大人しくなった。
タイミングを見計らったように、機構の幹部が咳払いした。
「やっぱり、久世ホールディングスさんの案で行くのが一番なんじゃないんでしょうかねぇ。東亜製鋼さんにとっても、猪本社長さんにとっても、それが一番なんだと思いますけどねぇ」
それが、この場の結論だった。
もちろん翡翠に異論は無く、金融のハイエナ達は互いに目配せして今日の成果を確認しあった。
「プレスリリースは正式契約を結んでからにしましょう」
翡翠はメモを取っていた万年筆を胸にしまって立ち上がった。
機構、銀行、それぞれの代表者に順に握手を求め、最後に猪本社長の前に手を伸ばした。
「我々に任せてください、必ず再建して見せます」
脱力して椅子の背もたれに体を預けていた猪本社長は、すがるように翡翠の手を握った。
「お願いします、お願いします」
「大丈夫ですよ」
翡翠は励ますように左手で猪本社長の肩を叩いた。
動けなくなったブタがハイエナに食われるのは自然の摂理だ。
翡翠は口元だけで笑った。
会議室へ入り、先に来ていたメンバーに軽く挨拶して席につく。
東亜製鋼から猪本社長を含む取締役五名、そのメインバンクであるアシハラ銀行から投融資部部長を頭にスタッフ三名、経営再建支援機構から幹部二名、そして久世ホールディングスから財務経理担当の翡翠、企画本部常務と法務部部長、そして提携会計事務所からの会計士一名が出席した。
――人間らしいところ、か。
翡翠は先ほどの山内の言葉を思い出ながら、居並ぶメンバーを見渡した。
銀行に証券、金融庁からの天下りが幅を利かせる公益法人。
いずれも死に体の企業に群がり、人もモノも全てを金に変えて勘定する金融のハイエナ達だ。
もちろん、翡翠もそのハイエナの一匹ということになる。
「しかし、ですね。それでは組合が納得せんのですよ」
東亜製鋼の猪本社長が机に両手を突き苦しそうに言った。
薄くなった頭部に浮かんだ苦汁の汗も、ハイエナ達の冷めた目には何の感慨もたらさなかった。
「よくわからないのですが」
翡翠がおもむろに口を開いた。
「労働組合の方たちは、我々に買収されるよりも会社が潰れた方が良いという考えなんですか?」
「いや、そんなことはありません。ただ条件が……」
「わかりませんね。このスキームなら技術者の雇用保障と退職金の支給、倒産すれば退職金なしで全員解雇ですよ。どちらが社員のためになるのかは、誰が見ても明らかだと思うのですが」
本当にまったくわからない、と翡翠は首を振ってメンバーに視線を回した。
アシハラ銀行の部長がそれを受けて大きく頷く。
「そうですよ猪本社長。ここまできて、あなたはまだそんなことを言ってるんですか。東亜製鋼をここまで追い詰めたのは、その組合との依存関係なんですよ」
「な、なにを言うんですかっ、部長さん」
猪本社長は色めき立って声を荒げた。
「あなた方は役員まで送り込んでおいて何を言ってるんですか。我々はいつでも銀行の指示通りにしてきました、その結果がこれでしょうがっ!」
「人事はおたくの問題でしょう。当行を離れた人間に関してまで、我々は感知しませんよ」
「責任逃れするつもりかっ、これだから銀行は信用ならないんだっ!」
ユデダコのように顔を真っ赤にして立ち上がった猪本社長を、脇に座った取締役がまあまあと抑える。
銀行と債務者の間で交わされるこの種の低次元な言い争いを何度聞いたか、翡翠はもう数える気もしない。
銀行が責任を取らないのは社会の常識だし、他人任せの経営で会社が潰れるのは当然の帰結だ。
翡翠はわざとらしく大きなため息をつき、ファイルの上を指の先でコツコツと叩いた。
「それで、支援機構の方からは何かありませんか」
「そうですねぇ、我々は別に会社更生法を申請してもらってもかまわないんですがねぇ」
「そんなことをされたら、うちが困るんですよ」
今度は銀行が色めき立つ番だった。
世界恐慌再びかと言われるこの時勢に3000億超の不良債権を新たに抱え込むことになったら、投融資部の部長として上から責任を問われることになるのだろう。
ここまで来てスカを食うわけには行かないとばかりに、部長は力をこめた声で猪本社長に迫った。
「猪本社長。ここで会社を潰したら貴方、特別背任に問われるかもしれませんよ」
「えっ?!」
「失礼ですが、そのお年で犯罪者と社会から糾弾される身になったら、お辛いんじゃないんですか。お孫さん生まれたばかりでしょう、娘さんになんて説明するんですか?」
ねえ、と今度は打って変わって優しい声を出す。
アメとムチの見事な使い分けに、猪本社長は萎れたように大人しくなった。
タイミングを見計らったように、機構の幹部が咳払いした。
「やっぱり、久世ホールディングスさんの案で行くのが一番なんじゃないんでしょうかねぇ。東亜製鋼さんにとっても、猪本社長さんにとっても、それが一番なんだと思いますけどねぇ」
それが、この場の結論だった。
もちろん翡翠に異論は無く、金融のハイエナ達は互いに目配せして今日の成果を確認しあった。
「プレスリリースは正式契約を結んでからにしましょう」
翡翠はメモを取っていた万年筆を胸にしまって立ち上がった。
機構、銀行、それぞれの代表者に順に握手を求め、最後に猪本社長の前に手を伸ばした。
「我々に任せてください、必ず再建して見せます」
脱力して椅子の背もたれに体を預けていた猪本社長は、すがるように翡翠の手を握った。
「お願いします、お願いします」
「大丈夫ですよ」
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