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BL版権物の二次創作ブログです。現在『メイド*はじめました』で活動中です。
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自己紹介

  名前:うさこ
  萌属性:血縁、年の差、アホ子受、ワンコ攻
  好き:甘々、主人公総受け
  嫌い:イタい子
  イチオシ:安元洋貴ボイズ

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周平は始終無言だった。
「乗りなさい」と一言、助手席のドアを開けて言った以外は、目白のマンションに戻るまで、ほとんど口を利かなかった。
「兄ちゃん……怒ってる……?」
玄関の扉が閉まると、裕太は恐る恐る聞いた。
周平は背を向けて、カギを確認している。
「どうして、俺が怒ってると思うんだ」
「だって、ずっと黙ってるし」
「俺は、何か言うべきだったのか?」
周平が振り返った。
その瞳には何の感情も浮かんではいない。
しかしそれは、強い怒りをなんとかコントロールしようとしているためだと、裕太には分かった。
両手をぎゅっと握り締め、裕太は言葉を探す。
ちゃんと状況を説明すれば、周平は分かってくれるはずだ――と、裕太は思うのだが、早くしなければ、きちんとしなければ、と焦れば焦るほど、舌が上手く動かなくなる。
裕太は言い訳したり、申し開きしたりするのは苦手なのだ。
いつもだったら、そんな裕太の性質を誰よりもよく理解している周平の方から、進んで話を促してくれるはずだったが、今日は様子が違った。
すがるような視線を向けた裕太に対して、周平は皮肉な微笑を浮かべ、小さく肩をすくめた。
「何を言えばいいんだ? 俺に何と言って欲しい? “可愛らしいドレスですね、よくお似合いですよ”とでも? それとも、“ボーイフレンドを連れてパーティーに出るのは、お前にはまだ早い”と説教でもすればいいのか?」
遠くへ突き放すような言い方だった。
ショックを受けた裕太が、信じられない思いで見上げると、周平は苦い顔をして視線を反らした。
棒立ちになった裕太の脇を抜け、靴を脱ぐ。
「おいで」
あがりかまちに上がると、周平は手招きした。
裕太は首を振って、後ろに下がった。
「やっぱり……怒ってるんだ、オレが馬鹿なことしたから……」
「――いつまでも、そんな所に立ってたって仕方がないだろう。さあ、早く上がりなさい」
「兄ちゃん、ごめんなさい……」
「いいから、来なさい」
「ごめんなさ――」
「裕太!」
雷鳴のような一喝が、広い玄関を震わせた。
ビクッと身をすくめた裕太に向かって、周平の手が伸びる。
その顔には、もう偽りの穏やかさはない。明らかな苛立ちがにじんでいる。
次に来るだろう衝撃を予想し、裕太がぎゅっと目を瞑った瞬間、その体は周平の肩に担ぎ上げられていた。
「に、兄ちゃ――」
「騒ぐんじゃない」
氷のように冷たく感じる声に、裕太の体が硬直した。
つま先からミュールが脱げ落ち、大理石の床に当たって、カツンと硬い音を鳴らした。

人形のように大人しくなった裕太を、周平はバスルームまで運んだ。
洗面台の上に座らせると、短いワンピースの裾を指先でチラッとめくる。
「なんだ、下着は着替えてないのか」
周平はホッとしたように言った。
ぽかんとして周平の目線を追っていた裕太は、すこし考え、ようやく意味が分かると、顔を真っ赤に染めた。
「あ、あ――、あああ、当たり前じゃんか!!! 兄ちゃんってば、なに言ってんの?!」
「こら裕太、騒ぐんじゃないと言っただろう」
悲鳴のような叫び声を上げた裕太に、周平は眉をしかめた。
「だだだ、だって! 兄ちゃんが変なことするから!」
「変なことじゃない、大切なことだ。いい子だから、静かにしなさい。まだ終わってない」
「終わってない?! ななな、なにが?! なにする気?!」
周平の言葉は、裕太をいっそう混乱させた。
洗面台から飛び降りようと裕太が脚をばたつかせると、太ももに置かれた手のひらに、ぐっと力が入る。
「裕太……お前が自分で静かに出来ないなら、俺が静かにさせてもいいんだぞ」
周平の目がすっと狭まり、声がオクターブ下がった。
「どうする、お前が好きに選んでいい。どっちがいいんだ?」
問いかける表情に、冗談はなかった。
脅しではない。周平がやると言ったら、それは本当にやるのだ。
裕太は長年の経験からそのことを学んでいたし、また、それに抵抗できるだけの力が――肉体的な意味でも、精神的な意味でも――自分にないことを、よく知っていた。
裕太は震え上がった。
「や、だ……兄ちゃん、怖いことしないで……」
「怖いこと? 俺が裕太を怖がらせるようなこと、するはずないだろう?」
周平はやんわりと微笑を浮かべ、赤ん坊をあやすような口調で言った。
カタカタと小刻みに揺れる裕太の膝頭に、そっと指を這わせる。
「大丈夫だよ、怖いことなんかしない。お前が何もされてないか、ちょっと調べるだけだ」
「な、何もって、なに……何のこと? オレ、別に、何にもされてなんかないよ」
「そうなのか?」
「そうだよ」
「じゃあ、この格好は何なんだ」
周平は裕太の膝裏に手を滑り込ませると、一気に左右に割り広げた。
むき出しになった内腿を、視線で辿る。
「こんな服を着て、どうするつもりだったんだ? お前が女の子になりたがってるなんて、俺は知らなかったぞ」
「ち、違う……違うよ、兄ちゃん……違う」
「何が違うんだ」
「これは、オレじゃない……オレはホントは嫌だったのに……だけど、しょうがなくて……」
「無理やり着せられたって言うのか?」
「そうだよっ、当たり前じゃんか! こんなの、自分で着たいと思うはずない……なんで、兄ちゃんなのに……オレの兄ちゃんなのに、そんなことも分からないの?!」
裕太の声は、恐れと不安で甲高く震えていた。
周平の手で体を開かれることには慣れていたが、こんな風に乱暴に扱われたことはなかった。
持ち上げられた膝が、肩よりも高い位置にある。
背中が後ろの鏡に押し付けられ息が苦しい。
しかし、それでも裕太は周平に抵抗しようとは思わなかった。
ただ、これまでどれほど大切にされていたのかを、今更ながら気が付いた自分の鈍さが悲しいと思っただけだった。
大きな瞳を潤ませ、それでも涙は零すまいと唇をかみ締める。
ふいに、周平の手から力が抜けた。
静かに裕太の足を下ろすと、捲くれあがった裾を丁寧に元に戻す。
「分かってるよ、裕太……俺は、ちゃんと分かってる」
「――じゃあ、なんで……そんなに、怒ってるの……?」
周平は、ああ、と深くため息をついた。
「分かってるけど、たまに忘れそうになるんだよ……お前が、遠くへ行ってしまうような……そんな気がする時が、あるんだ」
「そんなこと、あるわけないよ。オレ、ずっと兄ちゃんと一緒にいるって、約束したでしょ? それも忘れちゃったの?」
裕太の真摯な訴えを、周平は目を瞑って聞いた。
いつまでも答えない周平に焦れて、裕太が袖を揺する。
「ねえ、オレは……兄ちゃんが好き、なんだよ? 世界で、一番……好き」
「分かってるよ」
「じゃあ――」
「人は、変わるんだ」
「…………」
「変わるんだよ」
「…………」
「永遠なんかない」
まぶたの奥から現れた周平の眼は、透明で何の色もなかった。
真実を告げる者の、圧倒的な静けさに、裕太は言葉を飲み込んだ。
「お前が、いつまでも赤ちゃんでいてくれたら、よかったのにな」
ふっと表情を和らげると、周平は裕太の顎を持ち上げた。
胸ポケットからチーフを抜き取り、唇を覆った桜色のグロスを優しくぬぐう。
「そうすれば、お前はずっと、俺だけのものだ」
周平は低い声で睦言のように囁くと、ゆっくりと上半身を倒した。
裕太も近付く顔にタイミングを合わせて目を閉じる。
それは、そっと触れるだけの、ほんの小さな口づけだった。
*
「じゃあ……兄ちゃんも?」
ゆっくりと離れて行った唇に、裕太はぽつりと呟いた。
捨てられた子供のような顔で、首を傾ける。
「兄ちゃんも、変わるの?」
「俺は……変わらない」
「なんで」
「頭が、おかしいから」
周平は口元だけで笑った。
「狂ってるんだよ、お前に。だから、変われない……依存症の患者みたいなものだ」
「……じゃあ、オレもおかしいんだね。オレも、狂ってるんだ」
「お前は違う」
「ううん、そうだよ。だって、オレ兄ちゃんが好きなんだもん。ときどき酷いことするけど、でも……好きなんだもん」
「酷いことなんて、したか? 俺が?」
周平は心外だとでも言うように、大きく目を見開いた。
多少冗談めかしてはいるが、大部分が本気であることは間違いない。
裕太は、わかってないの、と頬を膨らませた。
「したよ、いっぱい。バイト勝手に止めさせたり、黙ってお見合いしたり、いつもオレのこと勝手に決めるし、頑固で、強引で、話聞かないし……」
それからそれから、と指折り数える裕太に、周平は苦笑した。
手を伸ばし、柔らかい髪を梳くようにして撫でる。
「そうか、それは本当に、ひどい兄ちゃんだな」
「うん、ひどいよ……さっきだって、兄ちゃん凄く怒ってて、オレちょっとだけ……怖かったんだよ?」
「……ごめん、裕太。悪かったよ、怖がらせるつもりじゃなかった」
「うん」
裕太はこくりと頷いた。
困った表情の周平を見上げ、にっこりと笑う。
「いいよ、大丈夫。だってオレ、兄ちゃん好きだから……信じてるから」
「裕太…………」
「オレが暗いの怖いって言うと、いつでも一緒に寝てくれた。道を歩くときは、絶対に手を離さなかった。母さんに叱られたって、父さんに叱られたって、オレ全然平気だったよ? だって、兄ちゃんは絶対に味方してくれるって、わかってたから……だから……」
裕太は口を閉じると、視線を自分の膝の上に落とした。
目の前に垂れる周平の手を見つけると、取り上げ両手で握る。
指をくっつけ、離し、関節の数を数え、折り曲げ、広げ……裕太は自分のものよりも一回り大きいその手のひらを、おもちゃのようにして遊びだした。
周平は何も言わない。裕太も何も言わない。
ずいぶんと長い間、トントンと裕太の踵が洗面台の扉を叩く音だけが鳴っていた。
「…………ねえ、兄ちゃん」
「ああ…………どうした? 裕太」
「兄ちゃんは、ホントに…………オレに赤ちゃんでいて欲しいの?」
裕太は俯いたまま聞いた。
周平は答えなかった。
ただ沈黙して、裕太の手をそっと握り返した。
裕太は慎重に顔を上げ、周平の目を見た。
「……いいよ、赤ちゃんでいてあげても」
「止めろ裕太。そんなこと、言うんじゃない」
「どうして」
「俺を煽れば、本当に……何をするか分からないぞ」
「なに、するの?」
「お前を……怖がらせるような、ことだよ」
「いいよ、しても」
「馬鹿なことを――」
考えなしに物を言うな、と周平は目を怒らせた。
しかし裕太は、それがひどくおかしかった。
なぜなら、周平が心配しているのは、周平自身に他ならないのだから。
そう考えると、裕太の口元が自然とほころんだ。
「でも、オレ兄ちゃんにして欲しい、何でもして欲しい」
「さっきまで、震えて、泣きそうだったくせに、何言ってるんだ」
「でも、いまは本当に、そう思うんだもん」
「駄目だ、裕太……そんなことは……出来ない」
「なんで」
「お前が、かわいすぎるからだよ……お前が、あんまりかわいすぎるから、俺は――」
モンスターにもなれない、と周平は苦しそうに言って、裕太を抱き寄せた。
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