依存症(3)-周平×裕太-

保護欲と支配欲は表裏一体であり、男の本能である――とは、誰が言った台詞だったか……。
「おかえりなさい！」
と、笑顔で出迎えてくれた裕太を見下ろしながら、周平はふとそんなことを考えた。
いずれ、酒の席での戯言の一つだっただろうが、守りたいという欲求が、ときに支配したいという欲求に摩り替わることを、実感として知っていた周平には、至極、当を得た意見であるように思えたものだ。
「ただいま、裕太」
周平が髪を撫でると、裕太はくすぐったそうに目を細め、コトリと手のひらに頭を預けてきた。
こういう、裕太の迷いも疑いも無い素直な仕草に、周平はいつも、たまらなく愛情を掻き立てられる。
いま、何故こんな風に毎日自分を出迎えてくれるのか、と周平が聞けば、おそらく裕太には、その質問の意味すらわからないだろう。
不思議そうに小首をかしげて、だってそれが当たり前でしょ、と何でもないことのように答えるに違いない。
10年前、学校から戻る兄を玄関で待ちわびていた小さな子供と同じように、10年後の今もまた、裕太は周平を出迎える。
それを普通と流せる裕太と、奇跡と捉える周平では、どちらがより重症なのか……それは、わからない。
しかし、裕太よりも少し長く生きている分、周平の方が世間が良く見え、これから起こりうるだろう様々な事態を想像できるだけの経験があった。
信頼や愛情を無邪気に表現する裕太に向かって、これから10年後も、お前はこうして俺を出迎えてくれているのだろうか……と、周平が聞けずにいるのは、そのせだ。
聞けば裕太は躊躇い無く「もちろん」と頷くだろうが、そんな言葉で人の心が縛れるはずはない。
社会に出て色々な人と出会い、様々な経験をつんだ後も、果たして裕太は変わらずに、自分の側にいてくれているのだろうか――。
裕太を大切に守りたいと思えば思うほど、その暗い想像は、まるで悪魔の囁きのように、周平の胸の奥に潜むモンスターを、怪しく唆すのだった。
お前のかわいい弟を、完全に手に入れたくはないのか――と。

薄闇の中に、白い胸が浮かび上がっている。
荒い呼吸に合わせて、大きく上下する肩を、上から覆いかぶさった周平が捕まえていた。
その額にもうっすらと、汗が滲んでいる。
と、ふいに周平の指が、下の横顔に伸びた。
頬にかかった髪を、優しく梳きあげ、細いうなじへと流す。
「……にい、ちゃん」
はぁと息をはいて、裕太が呼んだ。
周平は薄い体を潰さない程度に腕の力を抜くと、潤んだ瞳にそっと唇を寄せた。
「辛かったか、裕太」
「ううん……だいじょうぶ」
「そうか、じゃあよかったのか？」
「……ぅ」
裕太の耳が朱に染まった。
黙って目を伏せると、周平の肩に手を伸ばし、甘える仕草で首筋に額をこすりつけた。
「裕太」
「……うん」
「もっと、欲しいのか？」
周平がからかうように言った。
繋がったままの下肢を、円を描くように揺らめかせると、互いの快楽の名残が、皮膚の間で湿った音を立てた。
「っん……」
裕太が息を詰める。
周平を飲み込んでいる壁が、きゅっと締まった。
「やっぱり、欲しいんだな」
「ちが、ぅ……」
「いいよ、いくらでも欲しがれば」
楽しげに笑う周平に合わせて、華奢な体が揺さぶられる。
あ、と声をあげて身を反らせた裕太の喉に、周平がゆったりと舌を這わせた。
「お前が望む全てを、与えてやる、だから――」
だから、ずっと離れず側にいろ、という言葉は声にはならず、周平の口から直接裕太へと吹き込まれた。