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BL版権物の二次創作ブログです。現在『メイド*はじめました』で活動中です。
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自己紹介

  名前:うさこ
  萌属性:血縁、年の差、アホ子受、ワンコ攻
  好き:甘々、主人公総受け
  嫌い:イタい子
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周平の右手が、肩の高さまで持ち上がった。
形よく整えられた爪の先がグラスの脚を僅かに傾けると、底に残った透明な液体がこぼれ、ワンピースの袖口に小さな染みを作った。
「失礼」
周平は平坦な声で言った。
ほんの一瞬だったはずの動きが、裕太の目には奇妙なスローモーションのように映った。
「に――」
「これは、とんだ不調法を」
兄ちゃん、と言いかけた裕太の声を打ち消すように、周平が言葉をかぶせた。
「ドレスが汚れてしまいましたね」
「え……」
「レストルームに、ご案内させて頂けますか」
周平は裕太に向かって手を差し伸べた。
まるで本当のレディーにダンスを申し込むように、丁寧な物腰だった。
裕太は反応に困った。
周平がわざとらしくこぼしたカクテルの意味も、自分をまるで見知らぬ女の子のように扱う意味も、そして、確かに感じているはずの怒りを、完全に押し隠しまったことの意味も、何も分からなかったからだ。
裕太はまるで時間が止まってしまったかのように、目の前で揃えられた長い指を見詰めた。
「レストルームへ行って、染みにならないように、応急処置をしましょう」
ぼんやりと立ち尽くす裕太に、周平はもう一度ゆっくりと、噛んで含めるように繰り返した。
辛抱強い誘いかけだったが、やはり裕太は動けなかった。
自分の理解力が足りないせいで、兄の意図をめちゃくちゃにしてしまうことを恐れていたのだが、しかし周平はそう受け取らなかったようだった。
いつまでも答えない裕太に、今度は焦れたように「さあ!」と、少し強い声で促す。
驚いた裕太が反射的に手を掴むと、途端に強い力で引き寄せられた。
「あら、ダメよ裕太ちゃん、そんな古典的な手に引っかかっちゃ」
何がおかしいのか、光貴がクスクスと笑いながら、裕太に手を伸ばしてきた。
すかさず周平が間に入り、その手を遮る。
「ご心配なく、私は天国屋の者ですから」
周平は胸の内ポケットから名刺を取り出すと、光貴の鼻先に突きつけた。
「何かご不審でしたら、こちらに確認いただいて結構です」
「……あら、そぉ」
光貴は指先でつまみ取った紙片を、興味なさげに一瞥した。
周平は礼儀正しい微笑みを浮かべ、軽く目礼する。
「ええ、ご友人は、私が責任を持ってお預かりしますよ」
態度はいたって丁重だったが、その口調には、自分の圧倒的優位を確信する者の傲慢さが溢れていた。
瞬間、光貴の目が獲物を見つけた猫のように鋭く光った。
「ふぅん」
光貴は挑発的な視線で周平を見据えると、見せ付けるしぐさで、綺麗に並んだ活字の上を、ベロリと舐め上げた。

周平の眉間に微かにしわが寄る。
光貴はまるでそれを喜ぶようにニヤリと笑った。
そして唐突に紙片を口の中に放り込み、くちゃくちゃと奥歯で噛んで飲み込んだ。
「ごちそうさま、お、ニ、イ、さん」
「こ、KOKIさん……」
裕太があぜんとした声を上げると、光貴は、うふふ、と笑って舌なめずりした。
「とぉ~っても、オイシかったわぁ~」
恍惚とした表情で腰をくねらせた光貴に対して、周平はもう嫌悪の感情を隠さなかった。
汚い物でも見るように目をすがめ、冷笑に唇を歪める。
「どうやら……君に必要なのは、私の名刺ではなく、メンタルクリニックの診察カードだったようだ」
「あ~ら御慧眼。その通りよ、よくわかったわねぇ~」
「自覚があるなら重畳。早く自分にふさわしい場所に帰りなさい。ここはサーカス場じゃない、道化師にも手品師にも、出る幕はない」
「そうよねぇ~。いま必要なのは、どっちかっていうと猛獣使だものねぇ~」
毒を含んだ周平の言葉にも、光貴は全く堪えなかった。
むしろ、皮肉の応酬を楽しんでいるようにさえ見える。
裕太はオロオロと二人を見比べ、周平はうんざりしたというように、ふーっと大きく息を吐いた。
「ならば丁度いい。桜田門から人が来てる、適当な“檻”に空きがないかどうか、調べてもらおう」
「…………」
光貴が黙った。
一呼吸の間に、その双眸からふざけた調子が消え、危険な色が現れる。
役者が早変わりしたような、鮮やかな転換だった。
「イイな、アンタ……オレは頭のいいヤツはスキだぜ……」
光貴の喉の奥から、低くドスの聞いた地声が響た。
裕太は思わず首をすくめ、周平の後ろに隠れた。
光貴の変化の意味を知っていたからだ。
しかし、周平はにべもなかった。
「あいにく私は、愚鈍な大人と同じぐらい、生意気な子供が嫌いでね」
剣呑な雰囲気になど全く気が付かないかのように、冷淡に言い放った。
光貴と周平の間で、激しい火花が散る。
声を荒げる者などいない。
むしろ周囲に声が漏れ聞こえないほどに抑制された、静かなやり取りだったが、そこは弾丸が飛び交う戦場のように危険だった。
裕太の右手は知らず知らずのうちに、周平の上着の背を握り締めていた。
会話の大部分は、抽象的すぎて裕太にはよく理解できなかったが、それでも対峙する二人が、友情を暖め合っているのではない事は明らかだった。
互いに探り合うような、重苦しい沈黙が流れる。
緊張に耐えかねた裕太が、桜色の唇を薄く開いた。
「……兄ちゃん」
その小さな声……というよりもむしろ、細い息のようにかすかな響き……が、聞こえたのかどうかは分からない。しかし、周平は振り返った。
裕太の頭に手を添え、自分の肩に押し付けるようにして、もたれさせる。
「俯いて、顔が見えないように……お祖父さんが来てる」
裕太の耳元でそっと囁いた。
親しい関係性を、疑いようもなく匂わせる、甘い仕草だった。
注視する光貴の目が、飢えた獣のように光った。
大きく唇を舐め、おそらく誰にも理解不能であっただろう、不気味な微笑を浮かべる。
ギクリと動揺した裕太の背中を、周平は宥めるように一撫でした。
「私の目の届くところで、あまり馬鹿な振る舞いはしないほうがいい」
肩越しに光貴を振り返ると、周平は静かに言った。
そして思い出したように、「未成年の飲酒は違法行為だ、以後注意しなさい」と付け足すと、裕太の背中を押してその場を立ち去った。
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