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BL版権物の二次創作ブログです。現在『メイド*はじめました』で活動中です。
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自己紹介

  名前:うさこ
  萌属性:血縁、年の差、アホ子受、ワンコ攻
  好き:甘々、主人公総受け
  嫌い:イタい子
  イチオシ:安元洋貴ボイズ

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「裕太が好きなの選んでいいから。よく考えてな」
「う、ん……」
さあ、と背中を押されて送り出されたものの、目の前にずらりと並んだ携帯電話の、あまりの種類の多さに、裕太は呆然と立ち尽くすしかなかった。
上を見れば、大きなパネルと手書きのPOPが、下を見れば、持ちきれないほどのチラシとパンフレットが、それぞれの価格と性能を競い合って主張している。
店内に流れる大音量の音楽と、膨大な情報が合わさって、裕太はくらくらとめまいを起こしそうだった。
「画素? インチ? Kbps?」
どれも、小学校では教わらない単位ばかりだ。
徒手空拳でコロッセウムに放り込まれたローマ兵のように、裕太は途方にくれていた。
「数が大きいほうが、いいってこと……?」
裕太はとりあえず正面にあった一台と、その隣の一台を手にとって比べてみた。
ブラックとシルバー、折りたたみとスライド、それ以外の違いは裕太には見分けることが出来なかった。
「ヤだな、こんなの。兄ちゃんが選んでくれればいいのに……」
裕太はそっとサンプルを棚に戻した。
自分の能力を超える問題に行き当たったとき、その判断を周平に委ねるのは、裕太にとって一番楽で、また失敗しないために最も確実な方法だった。
裕太は難しいことや複雑なことを考えるのは大の苦手だったし、何より、周平が自分にとって最善の選択をしてくれるだろうことを、頭から信じ込んで、微塵も疑っていなかった。
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「――――どうして、そんな危ないことを」
周平はしばらく絶句した後、ようやく搾り出すように言った。
「なにかあったらどうするんだ、危ないことは絶対にしないって、兄ちゃんとの約束だろ?」
「だって、危なくないもん」
「迷子になったらどうする」
「人に聞くから大丈夫」
自信たっぷりで胸を張った裕太に、周平は顔をしかめた。
確かに、人見知りしない裕太のことだから、通りすがりの人を捕まえて道を聞くのは、何でもない事だろう。
しかし、周平に言わせれば、正にそれこそが「危ないこと」なのだった。
親切ごかしの薄笑いで「案内してあげる」とでも言われれば、裕太は何の疑いもなく付いて行ってしまうに違いないのだ。
その先に待っているものが、何なのか――それを想像することが出来ない裕太に、周平の心配はわからない。
そういった単純さを、周平は心の底から愛おしいと思っていたが、それも裕太の全てが、自分の手の内に収まっているとの確信があればこそだ。
名古屋と東京で、遠く離ればなれになっている今、そんな無謀を「かわいい」と笑って見守れるほどの余裕は、周平にはなかった。
どんなに裕太を思っていても、周平の背中に翼がない以上、空を飛んで助けに行くことは出来ないのだ。
「うん? それでも、少しは背が伸びたか」
周平は笑いながら、裕太の頭をくるりと一撫でした。
大きな手ひらは、そのまま肩から腕、背中へと、離れていた間の成長を確認するように、ゆっくりと滑ってゆく。
発展途上にある体は、まだ肉が乗らず薄っぺらいが、それでも、ただふにゃりと頼りないだけだった幼児の頃に比べたら、ずいぶんとしっかりしてきた。
欠けた月が満ちるように、刻々と変化し、充実しつつある裕太の姿を見下ろして、周平は眩しそうに目を細めた。
「どれ、体重はどうかな」
周平は裕太の腰に手を添えると、よっという軽い掛け声と共に持ち上げた。
「ぅわ……!」
「こっちはあんまり増えてないな、ちゃんと食べてるか?」
「に、兄ちゃんってば!」
裕太は突然の抱っこに、バタバタと足を動かして抵抗した。
家の中ならともかく、こんなに人の目がある場所で抱き上げられるのは、さすがの裕太でも、もう恥ずかしいと感じる年頃だった。
「こら、裕太。暴れたら危ないだろ」
「だって、だって、こんなの赤ちゃんにすることだもん!」
「裕太は、赤ちゃんじゃないのか?」
「ち、違うよっ! オレ六年生なんだからね!」
「そうか、じゃあ、兄ちゃんにおかえりぐらい言えるよな?」
「あっ――」
裕太は言葉に詰まった。
周平の首にしがみついて、赤くなった頬を肩口に埋めた。
「裕太? ほら、ちゃんと言ってごらん?」
周平は相変わらず笑ったまま、裕太の体を軽く揺すった。
「お、おかえりなさい……」
「よし、いいこだ」
周平は裕太をトンと地面に下ろすと、もう一度、優しい手つきで頭を撫でた。
お盆休み直前の品川駅は、人の波でごったがえしていた。
パンパンに膨らんだスポーツバッグを肩にかけ時刻表を見上げる大学生、両手に荷物と子供を抱えて出発前からクタクタな様子の母親、みどりの窓口は指定席を求める人たちの長い列でどこもいっぱいだ。
帰るべき田舎を持たない裕太は、新幹線改札前の柱に背中を預けて、そんな帰省ラッシュをどこか不思議そうな面持ちで眺めている。
――ひかり 360 10:04 東京
パッと切り替わった電子掲示板を見上げて、諒が裕太の肩を叩いた。
「裕太、着いたみたいだぞ」
「えっ! どこ、どこ、兄ちゃん、どこ?!」
裕太は群衆の中に周平の姿を探そうと、ぴょんぴょんと飛び上がった。
「ちょっと裕太、落ち着けよ。まだだよ、今ホームに新幹線が着いたってこと」
「な、なんだ、そっか」
えへへ、と照れくさそうに笑った裕太を、諒は複雑な面持ちで見下ろした。
「…………裕太さ、本当にアイツ、好きなの?」
「アイツ? 兄ちゃんのこと? うん、好きだよ、大好き!」
裕太は何の迷いもなく頷いた。
「あたりまえじゃん、だって、オレの兄ちゃんなんだから。好きに決まってるよ」
「決まって、るんだ……」
「うん、決まってる」
「そ……っか……」
裕太の邪気のない言葉は、諒の胸に刺さった。
裕太に対しては優しい顔しか見せない周平の正体が、実はモンスターなのだと……ただ諒だけが、その事実を知っていた。
諒は心臓の痛みをこらえて、強くこぶしを握った。
「じゃあ……俺、これで帰るから……」
「え? 兄ちゃん、もうすぐ来るよ?」
「うん、だから俺は……もういいだろ」
諒は困惑する裕太の視線を避けるように、下を向いて言った。
そのまま改札口から離れ、ぽつぽつと数歩進んでから、思い出したように振り返る。
「諒……?」
「裕太、絶対そこから動くなよ」
「え?」
「アイツ探して、歩き回ったりするなってこと。そこに立ってれば、あっちが勝手にお前見つけるから」
それだけ言うと、諒はじゃあなと最後に一度だけ手を振って、人ごみの中に姿を消した。
「あ、諒――――」
一人残された裕太はしばらく雑踏の中に諒の背中を探していたが、やがて諦めて、ひんやりと冷たい石の柱に、もう一度背中を押し当てた。
伝え忘れた「ありがとう」の言葉は、口の中だけで小さく言った。
「裕太、どうしたんだよ、今日は算数やるって約束だっただろ?」
ノートも鉛筆も持たず、手ぶらで部屋に入ってきた裕太を見ると、諒は不審げに眉を寄せた。
午前中は宿題を、遊びは午後から……それが諒と裕太が約束した夏休みの日課だったからだ。
「うん……」
裕太は諒の問いかけにあいまいに頷くと、そのまま入り口の扉に背を預けて、モジモジと足先で床に絵をかいている。
裕太との付き合いが長い諒は、その拗ねた子供のような態度に、ピンと思い当たるものがあった。
「何隠してるんだよ、裕太」
「べ、べ、別にっ、隠してないよっ! 全然! なんにも!」
容赦なく切り込んできた諒に、裕太は目を白黒させた。
「嘘付け。じゃあ何なんだよ、その態度」
「だ、だ、だって、だって諒……絶対怒るんだもん」
「怒る? 何が? 言わなきゃわかんないだろ、言ってみろよ」
「…………えーっと、じゃあさぁー、あのさぁー……」
機嫌を伺うように、チラリと上目使いの視線を送ってきた裕太に、諒は無言のまま続きを促した。
「今日さぁー…………勉強、休んでもいい?」
「…………」
「あっ! ほら、ほらっ、やっぱり怒った!」
「まだ何にも言ってないだろ」
諒は突きつけられた人差し指から視線をそらして、ぷいと横を向いた。
「なんで? 理由は?」
「あのね、今日、兄ちゃん帰ってくるんだ、名古屋から」
「帰って来る……? アイツが……?」
「うん、夏休みなんだって。だからオレ駅まで迎えに行かなきゃいけないんだ」
ホントに勉強をサボりたい訳じゃないんだよ、と裕太は手のひらをパタパタさせながら力説した。
はたから見れば単なる言い訳だが、あまり口のうまくない裕太にとっては、それでも精一杯の口頭弁論なのだ。
そして、諒が顔を白くして黙り込んでしまった理由も、裕太にとっては知りようもないことだった。
「……諒やっぱり、怒った?」
裕太は諒の表情を見ようと、扉から離れて隣にぺたりと膝をついた。
座った拍子に偶然肘が触れ合うと、諒の体がビクリと跳ねた。
「ねえ、諒……怒った?」
「…………怒ってないよ」
「ホント?」
「嘘付いてどうなるんだよ。……何時に行くんだ? 駅って新幹線だろ?」
諒に質問されて、裕太の顔がほっと安心したようにほころんだ。
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