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  名前:うさこ
  萌属性:血縁、年の差、アホ子受、ワンコ攻
  好き:甘々、主人公総受け
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裕太と周平は兄弟だ。
ただ、兄弟といっても年が11も離れているから、本人達の感覚からすると、それはむしろ「親子」といったほうが近いかもしれない。
実際、周平は自分の事を「裕太の保護者」と言ってはばからないし、裕太にしても周平のそういった発言を何の疑問もなく、自然に受け入れていた。
*
そういう関係の二人だから、当然ながら「兄弟喧嘩」というものをしたことがない。
裕太が物心付く頃には、周平はもうすっかり大人だったから、「どっちがおもちゃを使うか」だとか「おやつの大きさが違う」だとか「いたずらしたのは誰か」だとか、そういった普通の兄弟が良くやるような日常的ないざこざは、一つも経験したことがない。
それどころか、むしろ周平なら、裕太がおもちゃが欲しいと泣けば、進んで買い与えただろうし、おやつが小さいと不満を言えば、自分の物を食べさせただろうし、いたずらを発見したなら、一緒に謝ってやるからと優しく諭しただろう。
だから、例え周平と裕太の間に何か問題が起こったしても、それは決して「喧嘩」にはならない。
せいぜい、周平の過干渉に裕太がむくれるとか、裕太のワガママを周平が叱るとか、そういった結果にしかならない。
そんな場合だって、裕太がむくれれば、周平はそのご機嫌が直るまで、いつまでも付き合ったし、叱ると言ったって裕太にはどこまでも甘い周平のすることだから、最大限で「部屋に行って反省しなさい」だとか、「今日は外出は禁止」だとかその程度のことで、大きな声で怒鳴り付けたり、ましてや手を上げたりなどという事があるはずもなかった。
*
生まれたときからずっと、裕太にとって周平とはそういう存在だった。
裕太には、周平が頭を撫でる優しい手を思い出すことは出来ても、力ずくで何かを強要したり、自分を手酷く扱うさまなど、想像することもできなかった。
あの小さなアパートで、周平の夜の秘密を知ったときでさえ、裕太は覆いかぶさってくるその大きな体を怖いとは思わなかった。
思いもよらない状況に混乱はしたが、触れる手や唇の温もりを、なんだか懐かしいような、ひどく安心するような、心地よいものに感じていた。
そしてそれが、こうして二人が深く繋がった今もずっと変わらない、周平に対する裕太の認識だった。
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「あ~あ~あ~あ~、お前ら何やってんだよ」
その一瞬の、息の詰まるような静寂を、無遠慮に打ち破ったのは、二人のクラスメイトである芳賀伊吹だった。
あまり空気が読めない体質の芳賀は、諒の尋常でない様子にもまったく気が付かないようで、むしろその口調には、バカをやらかした同級生を面白がるような、おどけた響きがあった。
「藍川ならともかく、廣瀬まで、こんなことやるなんてな」
あはははと、二人の失敗を豪快に笑い飛ばした芳賀に引きずられるように、凍り付いていた教室の雰囲気が和んだ。
「だよなあ、驚いたぜったく、じゃれあいは小学生までにしとけっての」
「おーい、藍川、あんまし、廣瀬に迷惑かけるなよなー」
「廣瀬君って陸上部でしょ、部室で着替えて来なさいよ、先生には言っといてあげるから」
どっと沸きあがった二人を囃し立てる声に、裕太は暗い穴から助け出されたように、ほっと安堵の息を付いた。
「ご、ごめん、みんな驚かせて」
照れ隠しに頭をかきながら、えへへと愛想よく笑って見せた裕太に対して、ようやく我に返った諒は、顔面蒼白で、その体は小刻みに痙攣していた。
「りょう、諒、大丈夫だよ、諒」
裕太は、ハッハッと浅い呼吸を繰り返す諒の耳元で、そっと囁くと、爪が手のひらに食い込むほど強く握り込まれたこぶしを引いて、教室を出た。
「違う、俺は、こんな――違う、アイツとは違うんだ、違う…………」
ほとんど聞き取れないほど低い声でぶつぶつと呟やく諒は、裕太の目には、酷く何かを怖がっているように見えた。
兄の周平と、親友の諒。
この両者の対立が、一体いつごろから始まったのか、それは裕太は知らない。
裕太が最初にそうと気がついたのが、高校一年の秋、周平が札幌の転勤から戻ってきた直後だったから、少なくともそれ以前から、二人の争いは始まっていたのだろうと、ただなんとなくそう思っているだけだ。
*
諒は裕太の幼馴染で、同じ楽才学園にかよう高校一年生だが、同時に「永抄流廣瀬次期家元」という肩書きを持つ、茶道の師範でもある。
子供の頃から、お茶と同時に華道や書道もたしなんできた諒は、いつもは本当に穏やかで、上品な優等生だ。
なのに、こと周平に関することになると、まるで人が変わったかのように目を吊り上げてヒステリックになる。
だから裕太は、普段からあまりその話題に触れないように、注意していた。
争いごとが苦手で、口も上手くない裕太は、そうなったら黙って諒の小言を聞くしかなくなるからだ。
*
だから、それを最初に言い出したのは裕太ではない。
裕太はいつも通り、購買の自販機で買った紙パックのレモンティーを、ストローでちゅうちゅう吸い上げていただけだった。
ゴクリゴクリと美味しそうに喉を鳴らす様子を、諒がなんだかずいぶんと物言いたげな目で、じっと見つめてくるから、単純な裕太は「諒も飲みたいの」と、ただ無邪気にそう聞いただけだった。
信号が青に変わった。
一斉に動き出した人の波に押されるように、ズイと一歩踏み出した周平の指を、斜め後ろにいた裕太が不意に握ってきた。
思いがけないサインに、周平がはっと振り返ると、裕太は手を握ったまま、二人の横を早足にすり抜けてゆく人たちを、面白そうに、けれどとこかぼんやりとした風情で眺めていた。
自分のとった行動に、まったく気が付いていないようだった。
*
こういうふとした瞬間に、周平は自分の弟、裕太の事が、たまらなく愛おしいのだと、心の底から愛しているのだと、再確認する。
おそらく裕太は、雑踏の中、人の波に押されて一足先に出た周平が、自分の事を忘れてしまっているように感じて、不安になったのだ。
そして、親からはぐれそうになった子供がそうするように、置いて行かれないようにと、周平の手を握ったのだ。
それも、無意識に。
*
こういった無意識の甘え、無自覚な依存に、周平は、自分がいないと生きていけないのだと、言われているようで恍惚となる。
本人に自覚はないだろうけれど、その小さな仕草ひとつ、目線ひとつで、裕太はいつも周平を世界で一番、幸福な男に仕立て上げるのだった。
*
「兄ちゃん、どうしたの?」
立ち止まったまま、いつまでも歩き出そうとしない周平を、裕太が不思議そうに見上げてきた。
周平は蕩けそうなほど緩んだ頬を、更ににっこりと微笑ませた。
「別に、何もないよ」
周平は静かに答えた。
そして、裕太の手が離れてしまわないように、今度はゆったりと、次の一歩を踏み出した。
休日明けの月曜日。
和やかに挨拶を交わすクラスメイトの輪に、例のごとくニヤニヤと性質の悪い笑みを浮かべた滝沢が割り込んできた。
「よお、藍川。お前、昨日池袋の天国屋の前、兄貴と手ェ繋いで歩いてただろ」
「え? あ、うん、ウチ目白だし、兄ちゃん天国屋の本社で働いてるから、オレ池袋しょっちゅう居るよ?」
だからどうしたのと、滝沢の質問の意図がわからず裕太は首をかしげた。
隣でそれを聞いていた諒の額に、ぴしっと音がしそうなほどくっきりと青筋が浮く。
「裕太、お前…………」
「な、何? 諒?」
地の底から響いてくるような声に、裕太は思わずびくりと肩をすくめた。
おそるおそる諒を振り返ろうとした裕太の肩を、滝沢がくっと掴んで引き止めた。
「兄貴が天国屋本社? 百貨店勤務って、天国屋のことかよ…………じゃあお前、ひょっとしてアレか、「藍川」ってあの、天国屋グループの「藍川」か、オーナー一族の」
裕太を問い詰めるように、滝沢が額を近づけた。
「うえ? 「あの藍川」とかって言われても、俺良く分んないけど、一応、じいちゃんが今、天国屋のオーナーやってる……よ?」
そういうことが聞きたいのなら、といつになく真剣な様子の滝沢に、裕太はどぎまぎしながら答えた。
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