心のアルバム（8）-和泉澤＋櫻井×裕太-[裕太視点（2）]

教室にて

櫻井はちょっと変わってる。
変わってるって言っても、滝沢みたいに派手で目立つから周囲から浮いてるとか、そういうんじゃない。
むしろ櫻井は、そういう滝沢みたいな存在とは間逆にいる人間だと思う。
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櫻井はいつも一人だし、誰ともしゃべらないし、休み時間になっても席に座ったまま、黙って本を読んでる。
それも凄く難しい本。
辞書みたいに分厚くて、細かい字がびっしり詰まってて、もちろん挿絵なんかなくて、ついでに時々日本語じゃなかったりするから……俺にはもう全然意味が分らない。
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興味本位に、どうしていつも一人なのなんて、聞いたことがあるけど、櫻井は小さく笑っただけで、何も答えなかった。
それはとても空疎な微笑みで、俺はどきりとした。
失うことを知っている目だった。
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多分、櫻井にはわかっていたのだと思う。
俺には理解できないということが。
どんなに説明しても、百万の言葉を費やしても、俺には決して理解できないのだということが。
だから櫻井は何も語らず、あんなに寂しく笑ったのだと思う。

災いの黒幕（10）-周平×裕太-

「裕太！　周平！　たっだいまーぁ！」
門前に車のエンジン音が響いてから程なく、母親の賑わしい声が邸内に響いた。
二週間の長いバカンスを終えて、両親が帰宅したのだ。
周平の膝の上で読書感想文の課題図書を読んでいた裕太は、懐かしい母親の声に、はっと弾かれたように顔をあげた。
「おかえりなさーぁい！」
次の瞬間、裕太は歓声を上げながら、まりが転がるような勢いで部屋を飛び出した。
どどどどっと階段を駆け下りる裕太の背中を、周平は冷ややかと思えるほど、静かな瞳で見送った。

訪問者4500人突破記念

みなさま、ご訪問いただき、まことにありがとうございます。m(_ _)m
おかげさまをもちまして、訪問者4500人突破となりました。
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さて、突然ですが皆さん、ここでクイズです。
「東京と、名古屋と、札幌と、福岡に支店のある百貨店は？」
チッ……、チッ…………、チッ………………チーン。
正解は――「三越」と「西武」です…………多分。
*
だから、私は「天国屋」のモデルを「西武」にしたんですが…………。
（三越にしなかったのは、単に西武のほうが好きだったからｗ）
先日、「北京オリンピック女子マラソン代表決定」の記事を新聞で目にしたおり、私はとある一部分に、目が釘付けになりました！！！
*
――五輪代表の座を射止めた天満屋の中村は――――
え？　なんですって？
――天満屋の中村は――――
は……？
――天満屋の――――
……て、て、天満屋？？！！！
*
ちょ、ちょっとまて、落ち着け、こういうときは、グーグル先生に聞いてみるんだ！
「天満屋……天満屋……検索っと……」
――株式会社天満屋（てんまや）
日本の百貨店の一つで、中国・四国地方最大の百貨店グループ。
「………………MA、JI、DE……？！」
*
あのおーー、このサイトを見てくださっている人の中で、中国・四国地方にお住まいの、あるいはご出身の方はいらっしゃるでしょうか？
もしいらっしゃるなら、ご存知でした？
この「天満屋」という名前の百貨店。
*
私は知りませんでした！
全然っ、知りませんでしたっ！
*
するとなにですか、ひょっとして「天国屋」の本当のモデルは「天満屋」、というオチなんですか……？！
えぇぇ～～～～、こんな、ローカルな百貨店普通知らないよぉーー。
中国・四国地方以外の皆さん、知ってました？
知らないですよ…………ね？
*
うわぁ……どうしよう、もう私の頭の中では、すっかり「天国屋」は西武風なイメージの店として出来上がってるのに、今更、そんなこと言われても……。
…………うーーん。
ま、しょうがない、ここは、思い切って……「だって、二次創作なんだもーん」と、開き直ることにしよう…………うん、それしかない……ｗ
*
というわけで、相変らず私の中の「天国屋」のモデルは「西武」ということで落ち着きました。
皆さんも、妄想のむやみな拡張にはこういう落とし穴があるので、ぐれぐれもご注意くださいねｗ
*
キリバンおまけ話は、ホワイトデー物です。
お楽しみいただければ幸いです。

災いの黒幕（9）-周平×裕太-

「なんで――なんで、外で遊んじゃダメなの、やだヤダやだ――外で遊びたいぃぃー！！」
裕太はフローリングの床に引っ繰り返って、手足をばたばたと打ち付けた。
「裕太……だから何度も言っただろう、これは罰だよ。昨日買い物に出たとき、お前は兄ちゃんに黙って、遠くに行っちゃただろう、だからそれが反省できるまで、しばらくは外出禁止」
「反省したもん、ごめんなさいって言ったもん、だからもういいでしょ？　ね、兄ちゃん」
大きな瞳に涙を一杯ためて、裕太が周平のパンツの裾にすがった。
いつもなら、裕太がここまでごねれば、「仕方がないな」と、苦笑交じりに周平は妥協しているところだろう。
しかし今日は違った。
裕太の涙交じりの懇願にも、決して首を縦には振らなかった。
「ダメだよ裕太」
周平はきっぱりと言った。
「だって、だって、さっき諒が、遊ぼって誘いに来たんだもん、だから……だから、行きた――」
裕太はそこで言葉を詰まらせた。
周平の厳しい目に、ぐぐっと口をへの字に曲げると、次の瞬間うわぁんと弾かれたように泣き出した。
「さあ……裕太。いい子だから、今日は大人しく家で遊びなさい――庭には出ても良いから」
ぽろぽろと零れる大粒の涙を、周平の指がぬぐった。
周平は裕太が泣き疲れて眠ってしまうまで、その小さな頭を抱いていた。

災いの黒幕（8）-周平×裕太-

「チョコレート取ってきていい？」
裕太が、周平のシャツのすそを引いた。
買い物籠の入ったカートを押す手を止めて、周平は裕太を見下ろした。
「ね、イチゴが入ってるの、チョコレートがかかってるやつ」
裕太はキラキラと期待に満ちた眼差しで、周平を見上げた。
この天国屋系列のスーパー、「オーガニック・ガーデン」は国産品を中心に取り扱う、いわゆる「高質食品スーパーマーケット」で、ここでしか売っていない、ロイズのキッズチョコレートは、裕太の大好物なのだ。
周平は笑って頷いた。
「いいよ、取っておいで」
裕太はぱっと目を輝かせると、転がるようにして、菓子売り場へと駆けだした。
「危ないから、走っちゃダメだよ」
周平の声に、裕太は後ろを向いたまま、両手を振った。