BL版権物の二次創作ブログです。現在『メイド*はじめました』で活動中です。
自己紹介
名前:うさこ
萌属性:血縁、年の差、アホ子受、ワンコ攻
好き:甘々、主人公総受け
嫌い:イタい子
イチオシ:安元洋貴ボイズ
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2007/11/03 (Sat)
「坊ちゃん、車の用意が出来ました」
障子戸がスッと開き、縁側から組員が声をかけた。
「今行くから、玄関にその靴出しておいて」
ちょうど藍川君のネクタイを締め終えたところだった僕は、その鬼瓦面を振り返って、文机に置いてある箱を目線で指した。
それは外出などしない藍川君には不要な物だったが、今日のためだけにスーツと一緒に僕があつらえさせたのだ。
「失礼します」と、こぶしを付いて頭を下げるという型通りの挨拶をすると、組員は箱を持って出ていった。
僕は藍川君にジャケットを着せ、一歩下がってその全身を見る。
「うん、思ったとおり。やっぱり君には赤が似合うね」
自分のセンスに満足して、僕は藍川君に向かって微笑みかけた。
もちろん彼から返事は無い。焦点の合わない目で僕の向こう側を見ている。
藍川君はもうずっとこんな風だ。
自分からは決して動かないかわりに、僕がすることにも逆らわない。
立たせればじっと立っているし、座らせればじっと座っている。
だけどそれは僕を怒らせないようにというより、むしろ僕を拒絶するという、藍川君なりの表現方法のように思える。
そんなことを考えるたび、僕は何だか楽しくなってしまう。
「藍川君は僕が大嫌いなんだよね」
僕はくすくす笑いながら、彼の柔らかな耳たぶにきつく噛み付いた。
口内に広がる藍川君の血の味に目を細める。
「ほら、やっぱり君には赤が似合うよ」
障子戸がスッと開き、縁側から組員が声をかけた。
「今行くから、玄関にその靴出しておいて」
ちょうど藍川君のネクタイを締め終えたところだった僕は、その鬼瓦面を振り返って、文机に置いてある箱を目線で指した。
それは外出などしない藍川君には不要な物だったが、今日のためだけにスーツと一緒に僕があつらえさせたのだ。
「失礼します」と、こぶしを付いて頭を下げるという型通りの挨拶をすると、組員は箱を持って出ていった。
僕は藍川君にジャケットを着せ、一歩下がってその全身を見る。
「うん、思ったとおり。やっぱり君には赤が似合うね」
自分のセンスに満足して、僕は藍川君に向かって微笑みかけた。
もちろん彼から返事は無い。焦点の合わない目で僕の向こう側を見ている。
藍川君はもうずっとこんな風だ。
自分からは決して動かないかわりに、僕がすることにも逆らわない。
立たせればじっと立っているし、座らせればじっと座っている。
だけどそれは僕を怒らせないようにというより、むしろ僕を拒絶するという、藍川君なりの表現方法のように思える。
そんなことを考えるたび、僕は何だか楽しくなってしまう。
「藍川君は僕が大嫌いなんだよね」
僕はくすくす笑いながら、彼の柔らかな耳たぶにきつく噛み付いた。
口内に広がる藍川君の血の味に目を細める。
「ほら、やっぱり君には赤が似合うよ」
夜が深まるに連れて、雨足が激しさを増した。
ただでさえ見え難いスモークガラスの向こう側が、余計に見え難くなっている。
もっとも藍川君にはそんな事はどうでも良いのだろう、後部座席の僕の隣でぼんやりと外を眺めている。
「雨のせいかな、ずいぶん流れが悪いね」
僕は窓の外に目を凝らして、動かないテールランプの列にため息をついた。
すると助手席に座った鬼瓦顔の組員は何を勘違いしたのか、「どうも、すいません」と焦った顔で後ろを振り返って謝ると、今度は「おい、おメエ何とかしろよ」と、ハンドルを握った舎弟の坊主頭を小突いた。
組員のこういう馬鹿げた振る舞いにはいつもうんざりさせられる。
「ああ、いいよ。約束は嘉楼に10時なんだから、まだ十分余裕がある」
赤坂の料亭嘉楼は、潰れかけていた所を十年ほど前にウチに拾われた。
老舗が畑違いの商売に手を出して失敗するなんて、バブル期にはよくあった話だ。
以来、普通の店では歓迎されない、そのスジの人間が気兼ねなく騒げる店として業界では重宝されている。
だから今日のような、危ない宴会も、この店なら安心と言うわけだ。
僕はシートに深く体を預け、本日の宴会の主役である藍川君をじっくりと観察した。
細い肢体を強調するタイトなシルエットのスーツ。
シルクの生地が夜景の光を鈍く反射している。
耳たぶにはさっき僕がつけた、一筋の赤い痕。
我ながら完璧じゃないか。
この完璧なさまをどうやってめちゃくちゃにしてやろうか。
そんな僕の思考を、運転席からの慌てた声が遮った。
「ぼ、坊ちゃん! まずいです。この先で検問やってるみたいですっ」
「ど、どうしましょう」
鬼瓦と坊主頭が揃って僕を振り返る。
「騒ぐな、検問ぐらいで……しょうがない。道を変えよう」
車体を叩く雨よりも、うっとおしい検問よりも、この程度のアクシデントで度を失う、連中の頭の悪さに呆れながら、僕はそこの脇に入れと指示するために右手を上げた。
そのとき。
「ガツン」という音と共に、対向車線からはみ出したバイクが、車のフロントにめり込んだ。
軽い衝撃が車体をゆする。
「――」
三人の視線が一斉に追突犯を貫いた。
すると次の瞬間、犯人はフルフェイスのヘルメットをかぶったまま、バイクを捨てて逃げ出した。
「あっ! てっ、てめー! 待ちやがれっ」
「ふざけんな、この野郎! 逃げんじゃねえ!」
逃げる者は追うのがヤクザの本能、とばかりに後部座席の僕たちを置いて、二人の組員が車から飛び出してゆく。
「馬鹿、放って置け!」
僕が放った声は、頭に血が上った馬鹿二人には届かなかったようだ。
「これは――ちょっと、困ったな」
僕は自分の置かれた状況に唇をかんだ。
このまま、頭を冷やした二人が帰ってくるのを待つべきか、とも思ったがすぐにその考えは捨てた。
この先の検問で警官がうろうろしてるんだ、あっという間に飛んでくるだろう。
今すぐここを離れるべきだ。
「藍川君。車を変えるよ、タクシーで行こう」
そう決断した僕は、先の衝撃にもまったく無反応だった藍川君の腕を取って車の外に出た。
――やっべー、オレぶつかる瞬間見ちゃったよ
――うわっ、ベンツへこんでるっ!
――ね、ヤクザかな、ヤクザ?
事故を聞きつけた野次馬がもう集まりだしている。
こんな雨の中、まったく暇な連中の多いことだ。
僕は自分のジャケットを脱いで藍川君の頭にかぶせると、野次馬を無視して何とかタクシーを拾おうと辺りを見渡した。
「あ、あのう……貴方達あの車に乗ってたんですよね? 怪我とかは……」
「いま警察呼んだから、ちょっと待ってなよ」
「この傘、良かったら……」
僕達を少し遠巻きに見ていた連中から、恐るおそると言った調子で声がかけられる。
僕はそんな声をにっこりと笑顔で見渡し、黙らせた。
この場でタクシーを拾うのはどうやら無理そうだ。
近くの店にでも避難して、迎えの車を呼んで……。
頭の中で状況を分析しながら、先を急ごうと藍川君の手を強く引いた僕は、思わぬ抵抗を受けてつんのめった。
「え――?」
驚いて振り返ると、野次馬の一人が藍川君の肩を掴んで、顔を覗き込んでいる。
「その手を――」
離せ、と言いかけたとき、その男の持っている一枚のチラシに目が行った。
『藍川裕太 情報提供者に懸賞金 最高一千万円』
しまった。
僕は自分の失態に臍を噛んだ。
「な、なあ。アンタ、ひょっとして藍川裕太……サン?」
野次馬の作った人垣に、ざわめきが広がる。
――アイカワユウタ? どこかで聞いた……
――あっTVで見た! 謎の失踪事件!
――賞金一千万だ!
その声をきっかけに、僕たちの周りにどっと人が押し寄せた。
僕は藍川君を抱き寄せようと腕に力を入れたが、人の波に押されて繋いだ手が離れた。
「藍川君!」
思わず僕は叫んだ。
焦点の定まらない目は、決して僕を捉えなかった。
「藍川君!」
人垣を掻き分け手を伸ばした。
意志の無い体は、決して僕に答えなかった。
*
そして僕は共に落ちるべき伴侶を失い、一人で地獄へ墜落した。
ただでさえ見え難いスモークガラスの向こう側が、余計に見え難くなっている。
もっとも藍川君にはそんな事はどうでも良いのだろう、後部座席の僕の隣でぼんやりと外を眺めている。
「雨のせいかな、ずいぶん流れが悪いね」
僕は窓の外に目を凝らして、動かないテールランプの列にため息をついた。
すると助手席に座った鬼瓦顔の組員は何を勘違いしたのか、「どうも、すいません」と焦った顔で後ろを振り返って謝ると、今度は「おい、おメエ何とかしろよ」と、ハンドルを握った舎弟の坊主頭を小突いた。
組員のこういう馬鹿げた振る舞いにはいつもうんざりさせられる。
「ああ、いいよ。約束は嘉楼に10時なんだから、まだ十分余裕がある」
赤坂の料亭嘉楼は、潰れかけていた所を十年ほど前にウチに拾われた。
老舗が畑違いの商売に手を出して失敗するなんて、バブル期にはよくあった話だ。
以来、普通の店では歓迎されない、そのスジの人間が気兼ねなく騒げる店として業界では重宝されている。
だから今日のような、危ない宴会も、この店なら安心と言うわけだ。
僕はシートに深く体を預け、本日の宴会の主役である藍川君をじっくりと観察した。
細い肢体を強調するタイトなシルエットのスーツ。
シルクの生地が夜景の光を鈍く反射している。
耳たぶにはさっき僕がつけた、一筋の赤い痕。
我ながら完璧じゃないか。
この完璧なさまをどうやってめちゃくちゃにしてやろうか。
そんな僕の思考を、運転席からの慌てた声が遮った。
「ぼ、坊ちゃん! まずいです。この先で検問やってるみたいですっ」
「ど、どうしましょう」
鬼瓦と坊主頭が揃って僕を振り返る。
「騒ぐな、検問ぐらいで……しょうがない。道を変えよう」
車体を叩く雨よりも、うっとおしい検問よりも、この程度のアクシデントで度を失う、連中の頭の悪さに呆れながら、僕はそこの脇に入れと指示するために右手を上げた。
そのとき。
「ガツン」という音と共に、対向車線からはみ出したバイクが、車のフロントにめり込んだ。
軽い衝撃が車体をゆする。
「――」
三人の視線が一斉に追突犯を貫いた。
すると次の瞬間、犯人はフルフェイスのヘルメットをかぶったまま、バイクを捨てて逃げ出した。
「あっ! てっ、てめー! 待ちやがれっ」
「ふざけんな、この野郎! 逃げんじゃねえ!」
逃げる者は追うのがヤクザの本能、とばかりに後部座席の僕たちを置いて、二人の組員が車から飛び出してゆく。
「馬鹿、放って置け!」
僕が放った声は、頭に血が上った馬鹿二人には届かなかったようだ。
「これは――ちょっと、困ったな」
僕は自分の置かれた状況に唇をかんだ。
このまま、頭を冷やした二人が帰ってくるのを待つべきか、とも思ったがすぐにその考えは捨てた。
この先の検問で警官がうろうろしてるんだ、あっという間に飛んでくるだろう。
今すぐここを離れるべきだ。
「藍川君。車を変えるよ、タクシーで行こう」
そう決断した僕は、先の衝撃にもまったく無反応だった藍川君の腕を取って車の外に出た。
――やっべー、オレぶつかる瞬間見ちゃったよ
――うわっ、ベンツへこんでるっ!
――ね、ヤクザかな、ヤクザ?
事故を聞きつけた野次馬がもう集まりだしている。
こんな雨の中、まったく暇な連中の多いことだ。
僕は自分のジャケットを脱いで藍川君の頭にかぶせると、野次馬を無視して何とかタクシーを拾おうと辺りを見渡した。
「あ、あのう……貴方達あの車に乗ってたんですよね? 怪我とかは……」
「いま警察呼んだから、ちょっと待ってなよ」
「この傘、良かったら……」
僕達を少し遠巻きに見ていた連中から、恐るおそると言った調子で声がかけられる。
僕はそんな声をにっこりと笑顔で見渡し、黙らせた。
この場でタクシーを拾うのはどうやら無理そうだ。
近くの店にでも避難して、迎えの車を呼んで……。
頭の中で状況を分析しながら、先を急ごうと藍川君の手を強く引いた僕は、思わぬ抵抗を受けてつんのめった。
「え――?」
驚いて振り返ると、野次馬の一人が藍川君の肩を掴んで、顔を覗き込んでいる。
「その手を――」
離せ、と言いかけたとき、その男の持っている一枚のチラシに目が行った。
『藍川裕太 情報提供者に懸賞金 最高一千万円』
しまった。
僕は自分の失態に臍を噛んだ。
「な、なあ。アンタ、ひょっとして藍川裕太……サン?」
野次馬の作った人垣に、ざわめきが広がる。
――アイカワユウタ? どこかで聞いた……
――あっTVで見た! 謎の失踪事件!
――賞金一千万だ!
その声をきっかけに、僕たちの周りにどっと人が押し寄せた。
僕は藍川君を抱き寄せようと腕に力を入れたが、人の波に押されて繋いだ手が離れた。
「藍川君!」
思わず僕は叫んだ。
焦点の定まらない目は、決して僕を捉えなかった。
「藍川君!」
人垣を掻き分け手を伸ばした。
意志の無い体は、決して僕に答えなかった。
*
そして僕は共に落ちるべき伴侶を失い、一人で地獄へ墜落した。
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作中登場する組織名、人物名等は創作であり、実在のものとはいっさい関係ありません。
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コイビト遊戯・しおり-短編・他-
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