心のアルバム（7）-滝沢×裕太-[諒視点（3）]

2/14 教室にて

あっ、ほら、また滝沢のヤツ、裕太に触った。
さり気ないつもりでやってるんだろうけど、バレバレなんだよ。
下心が。
あんなミエミエな態度とられて、何にも気が付かないなんて、そんなの、この世に裕太ぐらいしかいないよ。
*
だいたい裕太は鈍感すぎるんだ。
ぼんやりで、思慮に欠けて、注意力が無くて、何度も危ない目にあってるのに、どんなに注意したって分らないんだ。
博愛主義も良いけど、いい加減学習しろよ。
世の中には、ろくでもない人間だっているんだってことを。
お前みたいなお人好しを騙して、傷つけて、メチャクチャにして、それで何にも感じないような、そういう酷い人間が、たしかに存在してるんだよ。
*
ほら、よく見ろよ、現にいるだろ、裕太の目の前に。
なんでそれが、分らないんだよ…………。

「わ、わ、わ、滝沢！　すげー、すげーよ、お前、このチョコレートの数！」
「あ、何がすげーんだよ、こんなもん。バレンタインだか何だかしんねーけど、いちいち捨てるのもめんどくせーよ」
「す、捨てる～？！　お前、何考えてんの！　止めろよ、そんなことすんの！」
「あ？　じゃ、どうしろってんだよ」
「そんなの、食べるに決まってるだろ！　チョコレートだぞ！」
「…………お前、ホントにバカだな」
「な、なんだよ、それ！　何がバカなんだよ！」
「食べられるはずねーだろ、どんだけあると思ってんだよ」
「どんだけって、だから、ここにある、えーっと、いち、にい、さん…………10個ぐらい？」
「言っとくけど、ここにあるのは、いま校門から教室に入って来るまでに押し付けられた分だけだからな」
「え？　……それって、どういうこと？」
「局に、出版社に、事務所に、これと同じもんが、もっと、山ほど届いてるんだよ」
「すげえ……………………羨ましいんですけど」
「……は、お前、マジで言ってんの？」
「うん、俺、チョコレート、大好きだもん！　」
「…………ふーん、藍川、お前チョコレート、好きなんだ」
「うん、すげー、好き！　食いモンの中で一番好き！」
「ま、ガキっぽいお前には、ぴったりだな」
「何言ってんだよ、滝沢。じゃ、お前は嫌いだって言うのかよ」
「嫌いも何も、俺は、そういうの、口に入れたことすらねえよ」
「へ……？　えーっと…………アレルギーとか……そういうこと？」
「ちげーよ、バカ。俺の仕事、何だと思ってんだよ」
「モデル、だろ？　そんなの、知ってるよ」
「なら分れよ。モデルってのは、カメラの前で格好付けるのだけが仕事じゃねえんだよ、自分の体メンテナンスして、いつでも最高の状態にキープしておくのが一番重要なんだよ」
「ほえー、そっかー、なるほど……チョコレートとか食べて太ったりしたらダメなんだ」
「それだけじゃねえ、チョコレートは肌に悪いの、常識だろ。……お前、こんなもんばっか食ってたら、顔中ニキビだらけになるぞ」
「ニキビ……出来たことない、それってどんな感じ？」
「はっ、ニキビ出来たことねえの、マジで！　お前、ホルモン異常なんじゃねえの……」
「なっ……って、ち、ちょっと、痛いよ、滝沢！　ほっぺたつねるなよ！」
「うっわ、なんだよ、この肌、つるつるで、やわやわで……」
「離せよ！　うわ、そんな、揉むな！　撫でるなー！　ぷにぷにするなーー！　俺はお前のおもちゃじゃないのー！」