ワガママ（3）-周平×裕太-

「裕太！」
オレが教室に入ると、待ちかねたように諒が早足で近付いてきた。
「おはよー、諒」
鞄を下ろしながら、いつも通りの調子で、オレがのんびり朝の挨拶をすると、諒は脱力したように、はぁっと大きくため息をついた。
「その様子じゃ、結局、何でもなかったみたいだな……ホントに、人騒がせも程ほどにしてくれよ」
「へ？　オレまた諒に迷惑かけた？」
えーっと、なんだっけ、と首を傾げたオレに、諒は怒ったような、呆れたような、複雑な顔で首を振った。
「もういいよ。昨日急に早退したから、心配してただけ」
「早退……って、あぁっ、あーっ！　そう言えば、そうだったー！」
オレはようやく昨日の状況を思い出して、さあっと頭から血の気が引いた。

「わわわ……ど、どうしよう、俺、学校ブッチしちゃった…………」
兄ちゃんのお見合いをぶち壊したり、その流れで、なんだか良く分らないままに、怒濤の初体験を済ませたりと、とにかくもう昨日は事が多すぎて、学校のことなんかすっかり頭の中から消えていた。
「やっぱ、怒られるかな、呼び出しとか…………ううう、どうしよう……」
たぶん顔面蒼白になっているだろうオレを、諒はしばらく腕を組んで見ていた。
「…………大丈夫だよ。俺が先生、誤魔化しておいたから」
いかにも、しぶしぶといった調子で口を開いた諒の言葉に、オレは頭のうえから、ぱっと光が射したような気がした。
「――――ほ、ホントに？！」
「ああ。裕太は具合が悪くて早退しましたって、言っておいたよ」
「りょ～う！！」
ありがとう、と感謝のあまり飛び付きそうになったオレに、諒はびしっと指を立てた。
「今回だけだからな！　もうこんなの、絶対に、二度はないからな！」
「うん、うん、約束する。ホントにっ、ありがと、諒！」
オレは諒の両手を握って、ぶんぶん振り回した。
諒は真面目な優等生だから、本当は先生に嘘をつくなんて、死んだってやりたくないはずなんだ。
だけどオレのために、嘘をついてくれた。
やっぱり持つべきものは、気が利く、親切な友達だよ、とオレは諒の厚い友情に感激し、感謝した。