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自己紹介

  名前:うさこ
  萌属性:血縁、年の差、アホ子受、ワンコ攻
  好き:甘々、主人公総受け
  嫌い:イタい子
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天国屋メンズ館のオープン記念パーティーは、華々しい音楽と共に幕を開けた。
アップテンポのリズムに合わせて、一階に特設されたランウェイを闊歩するのは、イメージモデルの滝沢蓮をはじめ、雑誌やCFで人気を集めるプロのモデル達と、話題作りために呼んだ俳優やタレントの、総勢20名だ。
出店ブランドのお披露目でもあるファッションショーは、終了後には見たものをその場で買って帰れるという、販売のデモンストレーションも兼ねている。
煌びやかな照明の下、次々と服装を変えて現れる長身の男達を、招待された顧客や、マスコミのカメラが熱心に見上げている。
その喧騒の輪から一歩はなれたところで、グラスを傾けつつ談笑するのは、天国屋の従業員と、取引先関係者だ。
「いや本当に、藍川さんが羨ましい、こんなに立派なご令孫がおられて」
太鼓腹を揺すって呵呵大笑した男は、メンズ館の建設費用、80億円を融資した都銀の頭取だ。
祖父も、ほっほっほっ、と特徴的な笑いで答えると、隣に立つ周平の背中を頼もしげに叩いた。
「なんのなんの、まだほんのひよっこですよ。まあ、そうは言っても、かわいい孫息子ですから、なんとか目をかけて、一人前にしてやりたいと思っておりますが」
「それはもう、何の心配もございませんでしょう。まったく、目が覚めるような、立派な青年におなりではないですか」
仰ぎ見るような視線を向けられて、周平は嫌味にならない程度の微笑を浮べた。
黙ったまま軽く頭を下げただけで、追従を否定も肯定もしないのは、社交辞令はあくまで会話の潤滑油であって、内容に意味はないことを、きちんとわきまえているためだ。
祖父はそんな周平を見遣って、満足そうに頷いた。
「身内を褒めるのもみっともないですが、実のところ私もこれには期待しておりまして、ゆくゆくは後を任せてみようかと考えておるんですよ」
「それは、なんとも楽しみなことで、天国屋の将来も安泰ですね」
「そうですかな、世辞だと分かっていても、そう言って頂けると心強い。老い先短い身としては、孫子の成長だけが生きる楽しみですからな」
「いえいえ、お世辞だなんてとんでもない、私は思ったことを率直に申し上げたまでです」
はっはっはっ、ほっほっほっ、と壮年と老年の二人の男は声をそろえて笑った。
白々しく繰り返される退屈な会話は、これで25人目になる。
周平は内心かなりイライラしていた。
涼やかに微笑んだ目元にも、穏やかに受け答える口元にも、真っ直ぐに伸びた背筋から、グラスを持った指先にまで、そんな感情は微塵も表れてはいなかったが、心の中では、一刻も早くこの場所から抜け出さなくてはと、苛立っていた。
今日のパーティーへの出席は、周平にとって仕事ではない。
メンズ館に関する業務は、既に本社から離れ、新館のスタッフ達へと移っているのだ。
周平はただ藍川家の一員として、一族と財界でのプレゼンスを維持するために、最低限、顔を見せる必要があったから、嫌々ながら出てきただにすぎないのだ。
ところが、会場の入り口で祖父に捕まって以来、ほんの十分の予定のはずが、次はあの人、今度はこの人と連れまわされて、かれこれ1時間は経過してしまっている。
手持ちの名刺はすっかり少なくなり、空いたスペースは、換わりに受け取った、取締役だの、理事長だのという、しかつめらしい肩書きの紙片に埋められていた。
本来なら、人脈を作らせてやろうという祖父の心遣いに感謝すべきところだが、裕太がもうとっくに授業を終えて帰宅している時間だから、周平は落ち着いて入られなかった。
休みであるはずの周平が、何のメモも連絡もないまま、在宅していないことに、裕太は驚いて、不安になっているに違いなかったからだ。
「すみませんが……そろそろ、私は抜けさせてもらえませんか」
周平は会話の輪から外れた一瞬の隙を狙って、祖父に耳打ちした。
「家で裕太が待ってるんです、一人なんで、早く帰ってやらないと」

ひそ、と潜めた周平の声に、祖父は満面の笑みを浮かべた。
「おお、そうだ! ちょうどいい、裕太もここに呼べ」
「は――? 裕太を……ここに、ですか?」
面食らった周平に、祖父は自得した様子で大きく頷く。
「うむ。お前達、目白に部屋を借りてるんだったな、車で迎えにやれば、10分で来られるだろう」
言うが早いか、祖父は返事も聞かずに、秘書に向かって手招きする。
壁際で待機していた縁無し眼鏡の男が、機敏な足取りで近寄ってくるのを、周平は、なんでもない、と首を振って止めた。
「ちょっと、待ってください、だめです、裕太はここには呼べません」
「なんだ、どうした、なにがだめだ」
「あの子は、まだ子供なんです。こんな場所に、呼べるはずありません」
「何を言ってる、裕太ももう高校生だろう、そろそろ公の場所に出してもいい頃だ」
不満そうな祖父に、周平はやんわりと、しかし断固とした口調で言った。
「とんでもない。まだまだですよ、口の利き方一つ知りません」
「そんなことは失敗しながら学んでいけばいい、若いうちはそれで許される」
言い募る祖父に、周平はそれでもだめだと、譲らなかった。
「今日は話題作りのために芸能関係者も多く呼んでいます。当然、ゴシップ漁りのマスコミも集まっているでしょう。こんな場所にあの子を出席させる訳にはいきません」
周平は、あれを見ろと言うように、会場の中央に向かって体を開いた。
ショーの終わったランウェイの周囲では、出演していたモデル達が集まって騒ぎ、さらにその周りを、雑誌記者や芸能レポーターが取り巻いている。
祖父は渋々といった様子で頷いた。
「むぅ……お前がそう言うなら、仕方がないが……久しぶりに、裕太に会えると思ったんだがなぁ」
それでもまだ不満そうな祖父に、周平はそっと息を吐くと、なだめるように言った。
「今度の休みに、裕太を連れてそちらに顔を出しますから、それで我慢してください」
「お! それはいい! それはいいな、そうしろ、そうしろ、必ずだぞ」
「はい、約束しますから」
子供のように顔を輝かせた祖父に、周平は苦笑するしかなかった。
素直で明るい裕太は、誰からも愛される。
当然のことだ、と周平は思う。
しかし、それを認めるのは、周平にとって決していい気分ではなかった。
自分以外の目が裕太を見つめることは――例えそれが肉親であっても、不愉快以外の何ものでもない。
「お前を閉じ込めたい」と、周平がことあるごとに囁く台詞は紛れもない本音だった。
しかし周平がそう言う度に、裕太はいつも頷くのだ、意味もわからないまま、うん、と嬉しそうに。
その可愛らしい様子は、まるで魔法のように、周平のモンスターを沈静化させる。
「……それでは、私はこれで失礼します」
周平は頭を下げると、すっと踵を返してフロアの出口へと向かった。
――お前の可愛い弟を、完全に手に入れたくはないのか。
胸の奥に潜む怪物からの危険な呼びかけに、周平は小さく頭を振った。
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