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BL版権物の二次創作ブログです。現在『メイド*はじめました』で活動中です。
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自己紹介

  名前:うさこ
  萌属性:血縁、年の差、アホ子受、ワンコ攻
  好き:甘々、主人公総受け
  嫌い:イタい子
  イチオシ:安元洋貴ボイズ

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終業のベルが鳴り、塾や部活にとみな忙しそうに教室を出て行く中、どこかぼんやりと所在なさげに椅子に座ったままでいる裕太に、俺は声をかけた。
「どうした裕太、久しぶりの登校で疲れたか?」
裕太は突然声をかけられて、まるでいま夢から覚めたような顔で、数度目をしばたたかせると、顔を覗き込んだ俺に向かって、恥ずかしそうに笑って見せた。
「――あ、諒。ううん……授業がさっぱりわかんなくてさ、ボーっとしてた」
裕太は頭をポリポリとかきながら、えへへと笑っているけど、その笑顔には力がない。
「裕太……しょうがないよ、長い間休んでたんだから。俺たちまだ一年なんだから、時間はたっぷりある、ゆっくり取り戻せばいいさ。俺も教えてやるから、一緒に勉強しよう」
裕太を力付けたくてそう励ました俺を、裕太は少し目を細めて見上げてきた。
「うん、ありがとう。諒」
こくんとうなずいた裕太の素直な仕草に勇気を得て、俺は一つ提案してみることにした。
「――あ、そうだ。裕太、今日これから俺ん家よってかない? 一緒に課題片付けちゃおうよ……それで、母さんたちにもお前の元気な顔、見せてやって欲しいな」

それは少しでも裕太と一緒にいたい俺の口実だったが、嘘ではなかった。
裕太発見の知らせを聞いて病院に駆けつけた一週間前のあの夜、ベッドに寝かされている裕太を見た瞬間、俺と母さんは手を取り合って号泣したんだ。
あのときどんなに強く揺すっても、耳元で名前を呼んでも、焦点の合わない目をぼんやりと見開いたまま、瞬き一つしなかった裕太が、たった一週間で、まるで何事もなかったかのように学校に来たんだ、母さんはきっと飛び上がって喜ぶだろう。
「裕太が家を出て行くって言ったとき、どうしてもっと強く止めなかったんだろうって、母さんすごく後悔していたからさ……」
少ししんみりしてしまった俺に、裕太は申し訳なさそうな顔をした。
「諒……ごめんな。俺全然覚えてないんだけど、おばさんにも迷惑かけたんだ……?」
裕太のその戸惑いを含んだ口調に、今朝と同様の疑問が再び俺の頭をよぎった。
本当はこんなこと聞くべきじゃないのかも知れない、聞くことで裕太の何かを壊してしまうのかもしれない、俺はそんな予感におののきながらも、自分の口を閉ざすことが出来なかった。
「あ、のさ……裕太。お前、どこまで覚えてるの……? 自分が三ヶ月間行方不明になってた事は知ってるんだろ? じゃあその前は? 櫻井の家に行ったのは覚えてるか? その後自分がどうなったのかは? 赤坂で見つかるまではどこに――」
次々と繰り出される質問に押されるように、椅子に座ったまま上体を仰け反らせた裕太は、困りきった顔で降参するように両手を挙げた。
「ええ? 諒、ちょっと、ちょっと待ってよ、俺ホントに何も覚えてないんだって。警察の人にも同じこと何回も聞かれたけど、諒の家を出た後から、ほとんど思い出せなかったんだから……」
「――ほとんどって?」
「うーんと、だから……諒の家を出た後、俺アパートに戻ったんだよ。だけど、なんか火事とか言って建物取り壊して……俺それ見てショックで町をふらついたんだ……そんで気が付いたら兄ちゃんの部屋で寝てた。それだけ」
「それ、だけ? 櫻井の家に行ったのは? お前熱出して……」
「話を聞くとそうらしいんだけどさ、覚えてないの。兄ちゃんは、アパートが焼けたショックで記憶がなくなっちゃったんだろうって言ってたけど」
「アイツが……?」
「うん。人間ってさ、時々そういうことするらしいよ。自己防衛って言うの? ショックすぎると、自分を守るために記憶を消しちゃうんだって。だから無理に思い出す必要はないって、もし記憶が戻っても大丈夫になって、そうする必要が有るなら自然と思い出すからって。それまで待ってればいいって」
「…………」
いかにもあの異常者が言いそうなことだと思った。
一見正論のように見える、裕太のことを思っての発言に思える、でも本当は違うんだ、そんなんじゃない。
俺は知ってるんだ、アイツは昔から裕太を世界の全てから隔離したいと思ってるってこと。
みんなはアイツの事を「面倒見のいい優しい兄貴」だなんて言って褒めるけど、そんなのあいつの外面に騙されてるだけだ。
アイツはただ裕太から自由を奪って、閉じ込めて、人形みたいにしたいだけなんだから。
「――裕太、だめだよ……そんなふうに……全部忘れるなんて……」
もしもアイツがこの場所にいたなら、どんな手段を使ってでも俺の口を塞いだだろう。
でも、幸か不幸かアイツはおらず、俺を止めるものもなかった。
「……例え嫌なことでも、それは本当のことで、おまえ自身の経験なんだから……ちゃんと、ちゃんと受け止めて――そう、しないと……お前はいつまでたっても、アイツの……言いなり……」
話を聞く裕太の顔が、みるみる不安の影に覆われていくのを見て、俺の声は次第に尻すぼみになった。
裕太はもうサンタクロースを信じてていい年じゃない、ネバーランドからはもう出なきゃいけない時間なんだ、アイツの与えた夢の中で生きている以上、裕太はアイツの所有物でしかいられない……それは間違いないのに、だけど……だけど……。
まるで捨てられた子供みたいな表情になった裕太を見ていると、自分は絶対に正しいこと言っているという自信が、しだいに揺らいでくる。
俺は裕太にとてつもなく残酷なことをしようとしてるのかもしれない。まるで、白雪姫に毒りんごを食べさせる継母みたいに……。
毒りんごを与えられ、生きながら死んでしまった白雪姫。
その眠りを覚ますのは王子のキスだけ。
七人の小人がどんなに泣いても、どんなに叫んでも、姫を助けることは出来なかった
そんな寓話と、あの日の自分が重なる。
あの日、廃人のようになって白いシーツに横たわっていた裕太。
裕太のお母さんが膝に取りすがって泣いていても、俺が手を握って名前を呼んでも、心を閉ざした裕太には全然届いてないみたいだった。
そして、そんな裕太の眠りを覚ましたのは……。
(いや、違う、違うそうじゃない。魔女はアイツだ、裕太に毒りんごを食べさせてるのはアイツのほうだ。俺じゃない、俺は裕太の目を覚まそうと――)
俺は自分の中の葛藤と戦う苦痛に、顔を歪めた。
「諒……具合が悪いの……?」
眉間にしわを寄せて黙り込んだ俺を心配したのだろう、裕太は俺の額にそっと手を当てた。
そのあまりにも邪気のない仕草に、胸が痛んだ。
(本当は自分のほうこそ不安で押しつぶされそうなくせに)
俺は自分の額に当てられた裕太の手を机の上に下ろすと、両手でギュッと握った。
緊張のためか不安のためか、裕太の細い手を握る指先が冷たくなっていた。
「裕太――ごめん……」
俺の唐突な謝罪に裕太は面食らったようだった。
「え? どうしたの――諒?」
俺を見返すその罪のない瞳に、俺は返事が出来なかった。
裕太に毒りんごを食べさせるのは俺なのか、アイツなのか、胸を張って答える自身を、もう俺はなくしていた。
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